崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
王国にて
仕度が終わったので、ミランダたちは女王のもとに向かった。
といってもシリルのものだというこの離宮から女王の住まう王城まではかなりの距離があるので、同じ敷地内ではあるものの馬車で移動することになった。
普通、女王に謁見するとなると広々とした玉座の間に向かう。だが今シリルの腕の中にはセドリックがいるし、他の護衛騎士たちに見られながらだとミランダが萎縮するだろうということで、女王とその夫だけが女王の執務室で待ってくれているそうだ。
シリルの隣で怖々と廊下を歩きながらも、ミランダは自分を見る視線に気づいていた。
既に王城でも、シリル王子が帝国人の恋人とその間に生まれた息子を連れて帰るということは、周知されているようだ。
(少なくとも、嫌そうな目はされていないかしら……)
さすがに初めて足を踏み入れる王城で魔術を使うつもりにはなれないので、ミランダは大人しくシリルの隣にくっついた。セドリックのほうはあらかじめ離宮でミルクをもらったし父親に抱っこされて安心しているしで、すうすうと眠っていた。
女王の執務室前で、ミランダはシリルからセドリックを受け取った。シリルは咳払いをして、ドアをノックする。
「失礼いたします、女王陛下。シリル・リドゲート、ただいま戻りました」
「お入りなさい」
中から、女性の声がした。執務室内には女王夫妻しかいないということだから、これが女王の声だろう。
(どんな方かしら……)
シリルの母で、セドリックの祖母となる女性だ。
緊張のあまり心臓がひっくり返りそうになりながらも、ミランダは腰を抱き寄せてくれるシリルの手に勇気をもらい、執務室に足を踏み入れた。
中は、ほどよく散らかっていた。壁を埋め尽くす棚から、丸めた地図や天秤のようなものが飛び出しているのが見える。
真っ赤な絨毯を進んだ先、重厚なデスクを挟んだ奥に、金髪の女性の姿があった。四十代半ば見にえる彼女こそ――このリドベキア王国を治める、女王ベアトリクスだった。
「おかえりなさい、シリル。おまえの活躍はしかと聞いております。この母に代わりよくぞ、暴虐なる帝国の悪行を暴いてくれました」
「ありがとうございます、女王陛下。今後とも、我が忠誠は陛下のもとに」
親子にしてはあまりにも仰々しい挨拶をした後、女王はその場に固まっていたミランダを見て、そしてその腕の中にいるセドリックを見てはっとした。
「シリル、そちらが……」
「はい。女王陛下ならびに王配殿下に、ご紹介いたします。こちらが書簡でもお知らせしました、私の恋人と息子――ということにしている方々です」
シリルの言葉には含みがあるが、女王と彼女の背後にそっと立っている男性――王配はその意味をきちんと理解しているようで、小さくうなずいた。
「そのようですね。ミランダと、セドリックだったかしら」
「は、はい! お初にお目にかかります、女王陛下!」
ミランダが舌がもつれそうになりながら挨拶をすると、今の事態がわかっているのかわかっていないのか、目を覚ましたセドリックも「まんびゃー!」とよくわからない挨拶をした。その瞬間、女王夫妻の目尻がふわりと垂れた。
といってもシリルのものだというこの離宮から女王の住まう王城まではかなりの距離があるので、同じ敷地内ではあるものの馬車で移動することになった。
普通、女王に謁見するとなると広々とした玉座の間に向かう。だが今シリルの腕の中にはセドリックがいるし、他の護衛騎士たちに見られながらだとミランダが萎縮するだろうということで、女王とその夫だけが女王の執務室で待ってくれているそうだ。
シリルの隣で怖々と廊下を歩きながらも、ミランダは自分を見る視線に気づいていた。
既に王城でも、シリル王子が帝国人の恋人とその間に生まれた息子を連れて帰るということは、周知されているようだ。
(少なくとも、嫌そうな目はされていないかしら……)
さすがに初めて足を踏み入れる王城で魔術を使うつもりにはなれないので、ミランダは大人しくシリルの隣にくっついた。セドリックのほうはあらかじめ離宮でミルクをもらったし父親に抱っこされて安心しているしで、すうすうと眠っていた。
女王の執務室前で、ミランダはシリルからセドリックを受け取った。シリルは咳払いをして、ドアをノックする。
「失礼いたします、女王陛下。シリル・リドゲート、ただいま戻りました」
「お入りなさい」
中から、女性の声がした。執務室内には女王夫妻しかいないということだから、これが女王の声だろう。
(どんな方かしら……)
シリルの母で、セドリックの祖母となる女性だ。
緊張のあまり心臓がひっくり返りそうになりながらも、ミランダは腰を抱き寄せてくれるシリルの手に勇気をもらい、執務室に足を踏み入れた。
中は、ほどよく散らかっていた。壁を埋め尽くす棚から、丸めた地図や天秤のようなものが飛び出しているのが見える。
真っ赤な絨毯を進んだ先、重厚なデスクを挟んだ奥に、金髪の女性の姿があった。四十代半ば見にえる彼女こそ――このリドベキア王国を治める、女王ベアトリクスだった。
「おかえりなさい、シリル。おまえの活躍はしかと聞いております。この母に代わりよくぞ、暴虐なる帝国の悪行を暴いてくれました」
「ありがとうございます、女王陛下。今後とも、我が忠誠は陛下のもとに」
親子にしてはあまりにも仰々しい挨拶をした後、女王はその場に固まっていたミランダを見て、そしてその腕の中にいるセドリックを見てはっとした。
「シリル、そちらが……」
「はい。女王陛下ならびに王配殿下に、ご紹介いたします。こちらが書簡でもお知らせしました、私の恋人と息子――ということにしている方々です」
シリルの言葉には含みがあるが、女王と彼女の背後にそっと立っている男性――王配はその意味をきちんと理解しているようで、小さくうなずいた。
「そのようですね。ミランダと、セドリックだったかしら」
「は、はい! お初にお目にかかります、女王陛下!」
ミランダが舌がもつれそうになりながら挨拶をすると、今の事態がわかっているのかわかっていないのか、目を覚ましたセドリックも「まんびゃー!」とよくわからない挨拶をした。その瞬間、女王夫妻の目尻がふわりと垂れた。