崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「まあ、元気な子。ミランダ、どうかもっと近くに」
「は、い……」
「大丈夫だよ、ミランダ」

 おずおずと前に出たミランダの腰を、シリルが支えてくれる。それを見た王配が「おや?」とばかりの笑顔で首を傾げたので、シリルは少しむくれたようだ。

 ミランダがデスクに近づくと、わざわざ立ち上がってデスクを回ってくれた女王は笑顔で手を差し伸べた。

「さあ、おばあさまに抱っこさせてちょうだい。……まあ、本当にかわいい子だわ」
「こうして子どもに触れるのも、もうシリルが赤ん坊のとき以来ですね」

 女王はセドリックを抱っこして楽しそうに体を揺らし、王配も顔を覗き込んでにっこり笑っている。なるほど、シリルの金髪と美貌は母親似で、ふわりとした笑顔は父親似のようだ。

「ミランダ、あなたのことも息子から聞いておりますよ。……シリルが帝国に『留学』している間、あなたは世話係の一人になってくれたそうですね。息子を見守ってくれて、本当にありがとう」

 セドリックを夫に渡した女王に言われたので、ミランダは急ぎ頭を下げた。

「滅相もございません! あのときの私は、殿下の身分を知らず……その、僭越ながら、弟のように接しておりまして」
「まあ、弟? ふふ、それはさぞ生意気な弟で困ったことでしょう?」
「母上……」

 シリルにじとっと見られてもお構いなしで、女王は昔を懐かしむかのように目を細めた。

「シリルは帰ってきてから、あなたのことをよく話してくれたのです。あなたは魔術だけでなく、いろいろなことを教えてくれたのでしょう? 冬に凍った池でスケートをしたときの話を聞いて、わたくしも一度やってみたいと思っていましたの」
「このへんは、真冬でも池が凍ったりしないですからね。シリルは本当に、帝国でいい経験ができたと思いますよ」

 セドリックを高い高いしていた王配も、朗らかに言った。

「あの頃の王国はいろいろと大変で……僕たちとしても苦渋の決断をして、シリルを帝国に預けました。これでよかったのだろうか、と陛下と一緒に悩む夜もありましたが……帰ってきたシリルが一回りも二回りも成長していて、しかもよく笑うようになっていたのが、本当に嬉しくて」
「……父上、もうそのへんにしてください」

 シリルは照れているのかぶっきらぼうに言い、父親からセドリックを受け取ってぽんぽんと背中を叩いてやった。
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