崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

別れと約束

 シーグが帝国で過ごす日々は、静かに過ぎてゆく。

 帝国に来て十分な食事や運動をするようになったからか、シーグはあっという間に大人の男性の体になった。一年経つ頃にはミランダの背をゆうに越し、騎士団での特訓で同じ年頃の騎士見習いから一本取れるようになっていた。

 そうしてシーグが大人になると、ミランダとの距離も自然に開いていった。相変わらず魔術の勉強ということで一緒に魔術書を読んだりミランダの魔法を見せたりもするが、前ほど一緒にいる時間は減った。

 その代わり、彼は同じ年頃の騎士たちと一緒にいるようになった。気の置けない友だちと話しているときのシーグはとても楽しそうで、ミランダは一抹の寂しさを覚えつつもシーグの幸せそうな横顔を見られてほっとしていた。






 ……そうして、シーグが帝国に来て四年経った、ある日。

「故郷に帰ることになった」

 授業部屋でシーグにそう言われたミランダは、やはりそうかと微笑みを浮かべた。

 シーグは今年、十八歳になった。すっかり大人の男性の体格になっており、出会ったばかりの頃のいたいけな少年らしさはほぼなく麗しい青年の顔つきになっていた。

 金色の髪はきれいに整えられ、緑色の目はきりっとしている。身につける服越しにも鍛えられた体つきがよくわかり、彼がこの四年間で心身ともに成長したことが見て取るようにわかった。

(……やっぱり、帰るのね)

 だいたいは、予想していた。なぜなら先日、リドベキア王国で長く続いた内乱が終わった――女王の命を狙っていた王弟の死が知らされたからだ。

 きっとシーグは、王国の内乱から逃げるために帝国に預けられた。その予想はずっと前からしていたのだ。

「それはよかったです。リドベキア王国も、政情が落ち着いたとのこと。私も安心して、あなたを送り出せます」

 あえてこれまでと違って敬語でしゃべるミランダに、シーグが悔しそうな眼差しになった。

「……。……ずっと、言えなかったことがある」

 シーグは膝の上で拳を固めてから、この四年でぐっと低くなった声で「ミランダ」と名を呼んできた。

「僕の本当の名は、シリル。シリル・リドゲート。リドベキア王国女王ベアトリクスを母に持つ……リドベキア王子だ」

 意を決したかのようなシーグ――シリルの告白に、ミランダは小さく息を呑んだ。

 ……わかっていた。

 シーグが、リドベキア王国のやんごとなき身分の者であるということくらい。戦火を逃れるために来たのだとしたら、相当身分が高いのだろうということくらい。

 ……もしかしたら、女王と同じく王弟から命を狙われている王子かもしれない、ということも。
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