崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……そう、ですね。私とシリル様がアルベック城で再会できたのも偶然のたまもののようなものです。でも、またあの方に会えて……本当によかったです」

 その言葉だけには偽りがないのでミランダがしっかりと言うと、女王はほっと息を吐き出した。

「ふふ、そう思ってもらえたならよかったわ。でも、もしあの子にだめなところがあったらちゃんと叱ってくれればいいし、なんならわたくしに言ってくれればいいわ。しっかりお尻を叩いてあげますからね」
「そ、そこまでは……」
「いいの、いいの。……まぁー、セド君ったら、おもちゃの扱いも上手なのね! もう、どうしましょう! この子はこの国一番の天才だわ!」

 セドリックはメイドから借りたおもちゃをぷにぷに掴んでいるだけだが、すっかり親馬鹿――ならぬ祖母馬鹿になっている女王はめろめろだし、周りのメイドたちも「さすがシリル殿下のご子息!」「将来は名君になること間違いなしです!」と褒めちぎっていた。

(……私はこの人たちも、騙しているのね)

 女王に追随したのではなくて心からセドリックのことをかわいがってくれているメイドたちを見ていると、胸が苦しくなってくる。

 女王と王配、シリル以外の王国民は皆、セドリックが王孫であると信じている。
 そして女王家の三人は、それが嘘であると信じている。
 ミランダだけは、女王家ではなくて国民の理解が正しいのだとわかっている。

 何重にも折り重なった嘘の上に成り立つ、脆い平和。
 はたしてシリルの次に王位を継ぐのは、誰なのか。セドリックが王となることが……許されるのか。

 血統の面では、問題ない。セドリックはシリルの子で、王位継承者になり得る。
 だが女王家の三人はセドリックのことを、ミランダが旅人との間に作りながらもシリルの思いつきにより実子扱いになった、高貴な血の一滴も持たない子だと思っている。

 女王たちはきっと、セドリックを大切にしてくれるだろう。他に好きな人がいるというシリルは、セドリックを失えば好きでもない女性と子を作らなければならない。

 それを避けるためにも……シリルの淡い恋を守るためにも、セドリックが皆に受け入れられるという今の状況は、喜ぶべきなのだ。
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