崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
ミランダの里帰り
「アルベック城に行きたいです」
ある日、王城にある女王の執務室にて、ミランダははっきりと言った。
ここ最近で縦向きの抱っこができるようになったセドリックを抱えたミランダの言葉に、デスクの向こうの女王はしばし考えたのち、うなずいた。
「わかったわ。では、わたくしが息子をしばき上げてきましょう」
「あ、いえ、それは結構です……」
「でも、あなたがそう言いだしたのはどうせ、息子のせいでしょう?」
女王はミランダの突然の里帰り宣言に動じるどころか、最初から息子を元凶認識しているようでぎりぎりと歯を噛みしめた。
「あのお馬鹿が! 女の子には優しくしなさい、ましてやミランダのことは女神のように敬うようにと日々言っているのに……ああ、わたくしは子の育て方を間違えてしまったのでしょうか、あなた!?」
「うーん……まずはミランダの話を聞こうかな?」
既にシリルを不肖の息子認定した女王に、王配が朗らかに言った。
「ということだから、ミランダ。今のうちに僕たちに言っておきたいことを言ってしまいなさい」
「は、はい。……実は、その、先日からシリル様と少し意見の衝突がございまして」
「磔刑ね」
「やめなさい、ベアトリクス」
うつろな目で息子の処刑方法を考える女王に王配が突っ込んだので、ミランダはおずおずと続ける。
「お疲れのシリル様に、私が無神経なことを言ったのが原因なのです。だから……その、今は少し距離を置いて私自身も落ち着くべきだと思いまして」
「それならばあなたが出て行くより、息子を追放したほうが手っ取り早いけれど……でも、そうね。アルベック城は、あなたにとっての帰る場所ですものね」
女王はゆっくりうなずき、そこではっとしたようにセドリックに視線を移した。
「……もしかして、セド君も一緒に……?」
「……」
「……おのれ、シリル! ミランダだけでなくて孫まで、わたくしたちのもとから離れさせるなんて!」
いよいよ息子への憎悪を募らせる女王の肩に、王配がそっと手を載せた。
「セドリックにとってのアルベック城は、生まれ故郷だものね。……ちなみにミランダ、どうやって帰る予定なんだ?」
「できるなら、空を飛んで。セドリックを抱えた状態でも、朝に出発すれば夕方にはアルベック城に着きます」
もしミランダが身軽な身で全力で飛べば半日程度で着くだろうが、セドリックを抱えるとなると速度は落とさなければならないし、道中の休憩も必要だ。
ミランダの言葉に、女王は考え込んだ。
「ふむ……ミランダの能力は、シリルからもよく聞いているわ。しかし、一人でというわけにはいきません。現在王城にいるあなたの元部下たちを全員かき集めて護衛にするならば、許しましょう」
「ありがとうございます、女王陛下」
レベッカをはじめとしたミランダと共に王国に来た魔道学院の元生徒たちは現在、王城で働いている。
彼女らに声をかければきっと、喜んで一緒に来てくれるだろう。アルベック城は皆にとっても、大切な場所なのだから。
ミランダが心からのお礼を言うと、女王は「いいのよ」と笑顔で手を振った。
「愛しあう二人も、ときには距離を置くことも大事。……わたくしたちも昔一度だけ、お互いのために距離を取りましたものね?」
「そうだね。でもあのとき、僕はベティに会えないのが寂しくて寂しくて……だからこそこれからずっとに一緒にいようと思えたんだよ」
「ああっ、あなた……!」
「……ああ、そうだ。このこと、シリルには伝えるのかい?」
女王夫妻の愛あるシーンを黙って見守っていたミランダだが、王配に声をかけられたため少しうつむいた。
「それは……少し悩んでいます」
「いいのよ、言わなくて。あなたたちがいるのが当然だと思ってはならないのだと、あの子も知るべきでしょう」
夫との抱擁を解いた女王は息子に肩入れするつもりは一切ないようで、ばっさり切り捨てた。
「わたくしが許しますから、ミランダとセドリックは心置きなくアルベック城にお帰りなさい。シリルが改心したら、迎えに行かせますし……それでもまだあの子が許せないなら、追い返してよろしい」
「え、ええと……」
「アルベック城の者たちも、ミランダの味方をするでしょう。……セドリックはわたくしたちの『孫』ですが、ずっと王城で暮らさなくてもいいのです。母親の生まれ故郷の空気に触れる時間を、持たせてあげなさい」
そう言う女王の眼差しは、どこまでも優しい。
ミランダのことを王家で庇護すると宣言しつつも、彼女が帝国人であることも否定しない。セドリックにも、自由を与えてくれる。
こんなに素晴らしい人たちの血を継ぐ子を産めたのは……ミランダにとって、誇らしいことだった。
「……はい! ありがとうございます、女王陛下、王配殿下!」
礼を述べるミランダの胸元で、セドリックも「みゃっ!」と笑顔になっていた。
ある日、王城にある女王の執務室にて、ミランダははっきりと言った。
ここ最近で縦向きの抱っこができるようになったセドリックを抱えたミランダの言葉に、デスクの向こうの女王はしばし考えたのち、うなずいた。
「わかったわ。では、わたくしが息子をしばき上げてきましょう」
「あ、いえ、それは結構です……」
「でも、あなたがそう言いだしたのはどうせ、息子のせいでしょう?」
女王はミランダの突然の里帰り宣言に動じるどころか、最初から息子を元凶認識しているようでぎりぎりと歯を噛みしめた。
「あのお馬鹿が! 女の子には優しくしなさい、ましてやミランダのことは女神のように敬うようにと日々言っているのに……ああ、わたくしは子の育て方を間違えてしまったのでしょうか、あなた!?」
「うーん……まずはミランダの話を聞こうかな?」
既にシリルを不肖の息子認定した女王に、王配が朗らかに言った。
「ということだから、ミランダ。今のうちに僕たちに言っておきたいことを言ってしまいなさい」
「は、はい。……実は、その、先日からシリル様と少し意見の衝突がございまして」
「磔刑ね」
「やめなさい、ベアトリクス」
うつろな目で息子の処刑方法を考える女王に王配が突っ込んだので、ミランダはおずおずと続ける。
「お疲れのシリル様に、私が無神経なことを言ったのが原因なのです。だから……その、今は少し距離を置いて私自身も落ち着くべきだと思いまして」
「それならばあなたが出て行くより、息子を追放したほうが手っ取り早いけれど……でも、そうね。アルベック城は、あなたにとっての帰る場所ですものね」
女王はゆっくりうなずき、そこではっとしたようにセドリックに視線を移した。
「……もしかして、セド君も一緒に……?」
「……」
「……おのれ、シリル! ミランダだけでなくて孫まで、わたくしたちのもとから離れさせるなんて!」
いよいよ息子への憎悪を募らせる女王の肩に、王配がそっと手を載せた。
「セドリックにとってのアルベック城は、生まれ故郷だものね。……ちなみにミランダ、どうやって帰る予定なんだ?」
「できるなら、空を飛んで。セドリックを抱えた状態でも、朝に出発すれば夕方にはアルベック城に着きます」
もしミランダが身軽な身で全力で飛べば半日程度で着くだろうが、セドリックを抱えるとなると速度は落とさなければならないし、道中の休憩も必要だ。
ミランダの言葉に、女王は考え込んだ。
「ふむ……ミランダの能力は、シリルからもよく聞いているわ。しかし、一人でというわけにはいきません。現在王城にいるあなたの元部下たちを全員かき集めて護衛にするならば、許しましょう」
「ありがとうございます、女王陛下」
レベッカをはじめとしたミランダと共に王国に来た魔道学院の元生徒たちは現在、王城で働いている。
彼女らに声をかければきっと、喜んで一緒に来てくれるだろう。アルベック城は皆にとっても、大切な場所なのだから。
ミランダが心からのお礼を言うと、女王は「いいのよ」と笑顔で手を振った。
「愛しあう二人も、ときには距離を置くことも大事。……わたくしたちも昔一度だけ、お互いのために距離を取りましたものね?」
「そうだね。でもあのとき、僕はベティに会えないのが寂しくて寂しくて……だからこそこれからずっとに一緒にいようと思えたんだよ」
「ああっ、あなた……!」
「……ああ、そうだ。このこと、シリルには伝えるのかい?」
女王夫妻の愛あるシーンを黙って見守っていたミランダだが、王配に声をかけられたため少しうつむいた。
「それは……少し悩んでいます」
「いいのよ、言わなくて。あなたたちがいるのが当然だと思ってはならないのだと、あの子も知るべきでしょう」
夫との抱擁を解いた女王は息子に肩入れするつもりは一切ないようで、ばっさり切り捨てた。
「わたくしが許しますから、ミランダとセドリックは心置きなくアルベック城にお帰りなさい。シリルが改心したら、迎えに行かせますし……それでもまだあの子が許せないなら、追い返してよろしい」
「え、ええと……」
「アルベック城の者たちも、ミランダの味方をするでしょう。……セドリックはわたくしたちの『孫』ですが、ずっと王城で暮らさなくてもいいのです。母親の生まれ故郷の空気に触れる時間を、持たせてあげなさい」
そう言う女王の眼差しは、どこまでも優しい。
ミランダのことを王家で庇護すると宣言しつつも、彼女が帝国人であることも否定しない。セドリックにも、自由を与えてくれる。
こんなに素晴らしい人たちの血を継ぐ子を産めたのは……ミランダにとって、誇らしいことだった。
「……はい! ありがとうございます、女王陛下、王配殿下!」
礼を述べるミランダの胸元で、セドリックも「みゃっ!」と笑顔になっていた。