崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

急転直下

 アルベック城で過ごす日々は、穏やかでかつ充実していた。

 いろいろな事情があって保留になっているが、いずれミランダはこのアルベック城の城主となる。
 だから、まだその準備段階ではあるものの城の皆はミランダとセドリックを「城主様とそのご子息」として扱ってくれた。

 アルベック城はあくまでも帝国辺境にある小さな城塞都市なので、離宮のようにメイドたちが有り余っているわけではない。そのためミランダも乳母と一緒にセドリックの世話をしつつ、城のあちこちに足を運んで皆の手伝いをしていた。

 城下街で木の剪定中に梯子から落ちたおじいさんがいる、と聞いたら治療に行き、水の魔術で牧場にいる家畜たちの体を洗ってやったり、はたまた城に届いたという手紙の確認作業をしたり。

 とても、楽しかった。
 楽しいと思えるのがシリルや女王たちに申し訳ないと思うくらい、アルベック城の仮の城主として過ごすのは、ミランダにぴったりだった。

(私はやっぱり、王子妃になる器なんかじゃないのね)

 城下街の子どもたちの手を引き、軽く空を飛んで一緒に遊びながら、ミランダは考えていた。

 離宮では、何不自由なく生活ができた。魔術を使おうとして「ミランダ様のされることでありません」と言われるのは、立場として仕方ないものの寂しいと思っていた。

 だからこそ、セドリックを抱っこして空の旅をしたときにはまるで若い頃に戻れたかのように楽しかったし、魔術を使いつつアルベック城の仲間たちと一緒に働くのがおもしろいと思えた。

 セドリックも離宮からアルベック城に移ってもいつもどおりで、すっかり城のアイドルになっている。
 セドリックを抱っこしたミランダが城下街を歩くと、あちこちから「ミランダ様!」「セドリック様!」という声が上がり、自分の名前が呼ばれているということはわかるらしいセドリックが喃語で応えると、皆は大喜びした。

 ミランダはまだ、シリルの恋人でしかない。いろいろあった末にミランダだけこの城に戻り、城主として生きる未来もあるかもしれない。

(でも、だらだらと流されるわけにはいかないわ)

 ミランダは、女王夫妻に恩義がある。
 それに、シリルのこともこのままではいけないとわかっている。

(この気持ちも含めて、シリル様に言わないといけない)

 女王は、シリルに迎えに行かせると言っていた。はたして彼がいつ王城を発ち、どれくらいの速度で来るのかはわからないが……空を飛べるミランダたちと違って馬で来ることになるのだから、どんなに急いでも三日はかかる。
 まだミランダたちが城に来て二日目だから、シリルが来るのは最速でも明後日くらいだろう。

 それまでに、ちゃんと気持ちの整理をしよう。

 そう思い、レベッカを伴って城下街を歩いていたミランダはアルベック城のほうを見つめたのだが――
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