崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……覚えているわ。私のことを散々、おばさん扱いしてくれたわね」
「む、昔のことじゃないの! 今のミランダは……きれい、よ……」

 そうは言うが、ものすごく言葉の切れが悪いし、怒りを堪えているかのように顔が歪んでいる。

「ミランダ様を、おばさん呼ばわり……!? 最低!」

 ミランダを敬愛するレベッカにとって許せぬ発言だったようで、彼女はずいっとヴィヴィアンに詰め寄った。

「帝国と王国の戦争での犠牲者が少なくて済んだのは、ミランダ様のことを想ったシリル殿下のおかげなのよ!」
「ふざけないでよ! わたくしのお父様を処刑したくせに、なにが『犠牲者が少なくて済んだ』なの!?」

 ヴィヴィアンはムキになってレベッカに言い返すが……ミランダは内心、あちゃあと思った。

(これじゃあ、自分が帝国の悪徳貴族の娘だと言っているようなものじゃない!)

 シリルは帝国との戦争でなるべく帝国側の被害も抑えたいと思ったようで、降伏する者は皆寛大に受け入れたという。そのため、先の戦いで処刑されたのは皇帝や宰相などの……帝国の膿だけだった。

 ミランダはヴィヴィアンの素性がばれないようにそれとなくぼかしてあげたのに、ヴィヴィアンのほうから自爆するなんて。

 案の定、それを聞いたレベッカたちだけでなく、周りで様子を見ていた城下街の民たちもぎょっとしたようにヴィヴィアンを凝視した。

「処刑、って……まさかあなたの父親、帝国の高官だったの?」
「そうよ! わたくしは、宰相令嬢だったのよ! あの戦いが起きるまでは!」

 もう黙ったほうがいいのに、というミランダの願いは通じず、ヴィヴィアンはぎゃあぎゃあまくし立てる。

「なぁにが帝国の民のため、よ! わたくし、シリル殿下のことが好きだったのに……わたくしの愛を拒絶してお父様を手にかけただけでなく、こんなババアに騙されるなんて!」
「いい加減にしなさい! 宰相は、処刑されてしかるべきことをした。そしてあなたはシリル様のご温情で生かされたのでしょう!」

 ミランダが進み出て声を上げると、ヴィヴィアンはぎりぎりと歯を噛みしめた。

「うるさい! ババアのくせに全部手に入れて、あまつさえわたくしに説教なんかして……! 全部シリル殿下のせいなんだから、代わりにあなたがわたくしの面倒を見なさいよ! あなた、ここの城主なんでしょ!?」

(……なるほど。ここに来た理由は、庇護を求めるためだったのね)

 魔術のために持ち上げていた腕を少し下ろすものの、ミランダはたまらなく悲しい気持ちでヴィヴィアンを見下ろした。

 ヴィヴィアンにだって、生きる権利はある。
 宰相は愚かだったが、娘に自分の仕事について全く教えなかったというのは賢明だったのかもしれない。おかげで、宰相令嬢でありながらヴィヴィアンはシリルに見逃されたのだから。

 だからもしヴィヴィアンが生きることを望み、そのためにアルベック城に身を寄せたいというのなら、ミランダだって無碍にはしなかった。
 ヴィヴィアンの名と宰相令嬢という身分を捨てて平民になるしかないだろうが、それでもいいと彼女が言うのなら、彼女のことをなにも知らない、彼女とは過去になにもなかったことにして、彼女を一人の民として受け入れていた。

 ……だが、ババアと罵りシリルの温情をも足蹴にするヴィヴィアンに、ミランダが保護を申し出る義理はあるのだろうか。
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