崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……残念だけれど、ヴィヴィアン様。あなたが何者であろうと、私はあなたをアルベック城に迎え入れることはできないわ」

 ミランダは静かに言い、慎ましくも美しいアルベック城下街を眺める。

「私はいずれ、このアルベック城の城主となる名誉を賜る。私はこの城を、帝国や王国などの国籍にかかわらず、あらゆる人々にとっての安らぎの場所、第二の故郷となることを願っているわ」

 だから、とミランダはヴィヴィアンを冷たく見下ろした。

「私は、あなたを受け入れることはできない。私が守っていくこの城に……あなたを置いておくことはできないわ」

 はっきりとした拒絶の言葉に、ヴィヴィアンは目を見開いた。そして――

「……う、ふふ。残念だわ、ミランダ。わたくしの言うことを聞いていれば、内緒にしてあげたのに」
「……なに?」
「――ミランダ!」

 ヴィヴィアンの物言いから、一抹の不気味さを覚えたミランダが問い返した――直後。

 ガガッ、ガガッと蹄が石畳を蹴る力強い音が響き、人垣が慌てて割れる。その先――南の門のほうから駆けてくる白馬とその背に跨がる人を見て、ミランダは息を呑んだ。

「シリル様!?」
「迎えに来たぞ、ミランダ!」

 手綱を操って、シリルはミランダの横に馬を停めた。全力で走ったからか、馬は汗びっしょりだしシリルの髪も正装も風であちこち乱れている。

(な、なんで!? まだ二日目の午後よ!?)

 どんなに急いでも三日はかかるだろう路程を、彼は一体どんな方法で二日足らずで踏破したのだろうか。

 ……いや、その疑問は後でいい。

「……フッ、あはははは! なんてタイミング! お馬鹿な王子様が来てくれたわ!」

 シリルの登場に最初は呆然としていたヴィヴィアンだが、彼女はおかしくなってしまったかのように笑い声を上げた。
 それを見て、シリルは気味が悪そうに馬を少し下がらせた。

「……誰だ?」
「ヴィヴィアン様です。ええと、帝国の宰相令嬢だった……」
「……。……ああ」

 シリルの、すごく面倒くさそうな「ああ」が、彼のヴィヴィアンに対する感情をはっきりと表していた。

 だがヴィヴィアンはゆらりと立ち上がり、兵士たちに四方を囲まれてもなお笑っていた。

「王子様、ご子息の誕生おめでとうございまぁす。でもですねぇ、その子の真実……知ってますか?」
「ちょっと、ヴィヴィアン――」

 最初はヴィヴィアンの剣幕に引いていたミランダも、まずい、と気づいた。

 シリルはともかく、ここにはレベッカをはじめとした多くの人がいる。もし、ヴィヴィアンが『何か』を暴露するとして……それは、皆に聞かれてはまずい。
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