崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……私は去年の夏、宰相がシリル様の暗殺計画を立てていることを知った。国境沿いの駐屯地にいるシリル様を、毒矢を使って急襲するというものよ」
「……へ?」
ヴィヴィアンは、ぽかんとしている。やはり彼女は、父親や皇帝の計画についてなにひとつ教えてもらっていなかったようだ。
「だから私は……悪いとわかっているけれどそれでもシリル様を放っておけなくて、薬品庫から薬を盗み、それを手に駐屯地に飛んだ。そこで私は毒矢で倒れているシリル様を見つけて、治療をして……その夜、お情けをいただいたの」
最後のところはちょっと本当のこととは事情が違うが、「熱でもうろうとしていたシリル様に無理矢理襲われました」とは言うべきではないので、ぼかしておいた。
「このことは、私たちだけの秘密にするつもりだった。でも私はセドリックを身ごもって……そうとは知らず、アルベック城に来た。そうしてシリル様と再会して、セドリックをあの夜にできた子として認めていただいたの」
皆に対する説明と相違ないように少し脚色しつつ言うと、ミランダの意図を察してくれたらしいシリルが続けた。
「国境での襲撃のことは、事情があって公にはできなかった。だからミランダに無理を言って、僕が敵情視察のために帝都を訪れていたときに再会したのだという話にした。……その点は、皆に嘘をついてすまなかった」
シリルが謝ると、ぽかんとしてやりとりを見守っていたレベッカが「そんな!」と声を上げた。
「シリル殿下やミランダ様にも、ご事情があったのでしょう! それにお薬のことだって、ミランダ様はシリル殿下を死なせるまいと決死の覚悟で薬品庫に行かれたのでしょう!」
「もしミランダ様のご決断がなければ、シリル殿下が毒矢で亡くなっていた可能性もあります。そうすれば……このアルベック城の平和も、存在しませんでした!」
他の魔術師も言うと、「そうだそうだ!」「お二人は間違っていない!」とあちこちから声が上がり……やっと、ミランダの体に温かい血液が戻ってきた気がした。
シリルはミランダを抱き寄せて微笑み、つとヴィヴィアンを見やった。
「……ということで。あなたの証言のおかげで、私の中でも少々気になっていたことの謎も解けた。ご報告に……心から感謝いたします」
「……ぇへ?」
深々と頭を下げられたヴィヴィアンは、放心状態だ。シリルは皮肉でも何でもなく、本当に心からの感謝をヴィヴィアンに述べている。
ミランダの庇護を求め、それが叶わなければ全てを壊してやろうと目論んでいたヴィヴィアンは、奇しくも自分の発言によってミランダとシリルの秘密をいい意味で皆に明かす手助けをしてしまったのだった。
もはや抵抗する気すらないらしいヴィヴィアンは兵士たちに連れて行かれ、ミランダはシリルに抱きしめられて城に帰った。
城下街での悶着を聞いていたらしい使用人たちはミランダの無事とシリルの帰宅を心から喜び……そして、「セドリックを連れてきてくれ」ということで、乳母がセドリックを連れてきてシリルに渡した。
(シリル様……)
ミランダは、不安な気持ちでシリルを見上げた。
先ほどの事件により、セドリックがシリルの息子であるというのはとてもいい形で皆に伝えられた。
シリルが多少の嘘を言っていることになるが、王家にはいろいろな事情があるだろうしそもそも救国の英雄である王子が多少嘘をつこうと、誰も気にしていなかった。
セドリックは間違いなく、ミランダとシリルの子である。
それだけわかれば、皆は十分だったのだろう。
だが。
「……シリル様」
ミランダが声をかけると、腕の中でセドリックをあやしていたシリルが穏やかな眼差しで振り返った。
「ミランダ、大丈夫だよ。全部……謎が解けたから」
「あの、それは先ほどもおっしゃっていましたが、いったい……」
「……。……一緒に来てほしいところがある」
シリルはそう言って、歩きだした。
「……へ?」
ヴィヴィアンは、ぽかんとしている。やはり彼女は、父親や皇帝の計画についてなにひとつ教えてもらっていなかったようだ。
「だから私は……悪いとわかっているけれどそれでもシリル様を放っておけなくて、薬品庫から薬を盗み、それを手に駐屯地に飛んだ。そこで私は毒矢で倒れているシリル様を見つけて、治療をして……その夜、お情けをいただいたの」
最後のところはちょっと本当のこととは事情が違うが、「熱でもうろうとしていたシリル様に無理矢理襲われました」とは言うべきではないので、ぼかしておいた。
「このことは、私たちだけの秘密にするつもりだった。でも私はセドリックを身ごもって……そうとは知らず、アルベック城に来た。そうしてシリル様と再会して、セドリックをあの夜にできた子として認めていただいたの」
皆に対する説明と相違ないように少し脚色しつつ言うと、ミランダの意図を察してくれたらしいシリルが続けた。
「国境での襲撃のことは、事情があって公にはできなかった。だからミランダに無理を言って、僕が敵情視察のために帝都を訪れていたときに再会したのだという話にした。……その点は、皆に嘘をついてすまなかった」
シリルが謝ると、ぽかんとしてやりとりを見守っていたレベッカが「そんな!」と声を上げた。
「シリル殿下やミランダ様にも、ご事情があったのでしょう! それにお薬のことだって、ミランダ様はシリル殿下を死なせるまいと決死の覚悟で薬品庫に行かれたのでしょう!」
「もしミランダ様のご決断がなければ、シリル殿下が毒矢で亡くなっていた可能性もあります。そうすれば……このアルベック城の平和も、存在しませんでした!」
他の魔術師も言うと、「そうだそうだ!」「お二人は間違っていない!」とあちこちから声が上がり……やっと、ミランダの体に温かい血液が戻ってきた気がした。
シリルはミランダを抱き寄せて微笑み、つとヴィヴィアンを見やった。
「……ということで。あなたの証言のおかげで、私の中でも少々気になっていたことの謎も解けた。ご報告に……心から感謝いたします」
「……ぇへ?」
深々と頭を下げられたヴィヴィアンは、放心状態だ。シリルは皮肉でも何でもなく、本当に心からの感謝をヴィヴィアンに述べている。
ミランダの庇護を求め、それが叶わなければ全てを壊してやろうと目論んでいたヴィヴィアンは、奇しくも自分の発言によってミランダとシリルの秘密をいい意味で皆に明かす手助けをしてしまったのだった。
もはや抵抗する気すらないらしいヴィヴィアンは兵士たちに連れて行かれ、ミランダはシリルに抱きしめられて城に帰った。
城下街での悶着を聞いていたらしい使用人たちはミランダの無事とシリルの帰宅を心から喜び……そして、「セドリックを連れてきてくれ」ということで、乳母がセドリックを連れてきてシリルに渡した。
(シリル様……)
ミランダは、不安な気持ちでシリルを見上げた。
先ほどの事件により、セドリックがシリルの息子であるというのはとてもいい形で皆に伝えられた。
シリルが多少の嘘を言っていることになるが、王家にはいろいろな事情があるだろうしそもそも救国の英雄である王子が多少嘘をつこうと、誰も気にしていなかった。
セドリックは間違いなく、ミランダとシリルの子である。
それだけわかれば、皆は十分だったのだろう。
だが。
「……シリル様」
ミランダが声をかけると、腕の中でセドリックをあやしていたシリルが穏やかな眼差しで振り返った。
「ミランダ、大丈夫だよ。全部……謎が解けたから」
「あの、それは先ほどもおっしゃっていましたが、いったい……」
「……。……一緒に来てほしいところがある」
シリルはそう言って、歩きだした。