クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

はな、のびやかに

私の目の前には、晴れた青空をバックにした観覧車があった。
その横には「きゃー!」と叫び声を上げてジェットコースターを楽しむ人達が見える。

耳にはポップで明るい曲が聞こえていて──って。

「夏織さんっ!? ここは夏織さんのアトリエじゃなくて遊園地ですけどっ!」

隣で呑気にトロピカルドリンクを飲んでいる麗人に声を掛けたが、「そだねー」と、これまた呑気な声が返ってきた。

「今はコンクールの準備期間なのに、なんで遊園地なんですかっ! 屋外ゲリライベントをやるのかなと思って、ここまでついて来たのにっ」

「ゲリラは楽しそうだけど、ないない。いやぁ。だって、俺が普通にコンクールに出てたら、普通に馨に勝つ。けど、今回ばかりは馨はちょっと違うと思うから、俺も普段しないことをして、コンクールに挑もうかなぁって」

いつも通りの余裕さ。
しかし夏織さんは、いつもの着物姿ではなく、白いジャケットに黒いスタンドカラーのシャツ、下は黒のジーンズというスタイル。
かなりラフな姿だが、見た目の良さもあって、モデルが遊園地にスナップ写真を撮りに来たような華やかさがあった。

「それが遊園地に行くってことですか」

「そ。一応ちゃんとした準備は進めているから、安心して。指定花材は楽勝だから、生け込みが勝負のポイントだろうしね」

にっこりと微笑みながら、またドリンクを飲む夏織さん。
その余裕な空気感のせいで、ドリンクが早くも勝利の美酒に見えてしまった。


確かに夏織さんなら、当日その場で全員に同じ花材が配られる指定花材部門は、目を瞑っていてもこなせるのかもしれない。古典的なスタイルを得意とする夏織さんの真骨頂だ。

問題は、指定された会場のスペースで、制限時間内に作品を生け上げる『生け込み』。
技術、色彩、空間の総合コーディネートが求められる、遥かに難しい部門だ。
照明の角度や明るさ一つで、作品は表情を変える。過去の参加者は、本番ギリギリまで試行錯誤するという。
「じゃあ、生け込みはもうテーマが決まっているとかですか。だから、普段とは違う息抜きをしに来たとか?」

「いや。テーマも何も決まってないよ。それを決めに来たって感じかなぁ」

ゆるやかな言葉を流すように、爽やかな風が吹く。
チラッと夏織さんの顔を見るけど、穏やかに微笑んでいるだけ。
それを見て、私はふっと苦笑した。

「夏織さんなら大丈夫なのかな。きっと皆がびっくりする作品を作っちゃうんだろうね。私はそのお手伝いが少しでも出来るのが嬉しいし、勉強させて貰いますね」

私が意気込んでも仕方ない。
華道のインスピレーションを遊園地から受けてはいけない、という規則もない。
これも夏織さんの方針なのだろう。
馨先生だって、独自のスタイルの華道を模索してきているし、と思っていると夏織さんが私の頬を撫でて来た。

それを見ていたのであろう周りの女性客が「羨ましいっ」と声を上げたので、私は変に動揺してしまった。

──こんなの。
夏織さんからしたら、花を触るのと同じくらい、どうってことない行動なのに。
今日はちょっと距離が近くて、まるで恋人みたいに撫でてくるからドギマギする。

「立花ちゃんのそういうところ、やっぱりいいよね」

「えっ……」

「俺はずっと、やれることをやってきただけなのに、勝手に周囲が価値を付け始めた。それだけならまだしも、勝手に羨んだり、憧れてきたり。人を的みたいに、感情をぶつけてくる……」

夏織さんの優しい表情の中で、眉根にきゅっと深く皺が寄っているのを見つけてしまった。
そんな表情を見るのは初めてだ。
いつも飄々として、桜吹雪の中でも悠然と立っているような人なのに。

「夏織さん?」

思わず、小さな声で名を呼んでしまった。
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