クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

「それが、コンクールで夏織さんと勝負して勝つことが馨先生の想い……って、そんなの最初から言ってくれたらよかったのに!! 私、馨先生のことを、諦めようと思っていたのにっ……それにどっちが勝ったら、許嫁に結婚なんて、私、そんなの決めれませんっ」

「立花ちゃん……そうだよね。勝手に巻き込んでごめん。でも──いずれはこうなったと思う」

夏織さんの重みある言葉に思わず瞳に涙が溢れて、泣いてしまいそうになった。
すると夏織さんも立ち上がり、私の肩をそっと掴んだ。

「こんな風にさせてしまったのは、俺にも原因があるのは理解している。俺が馨や立花ちゃんがそばにいるのが心地良かったから……永遠に三人が一緒だったらいいのにって、思っていた」

「夏織さん……」

私もどこかでずっと、このまま三人でいられたらいいって思っていた。だからまた目頭が熱くなった。

「馨が立花ちゃんを思う気持ちは分かっていた。でも、二人がそばにいるのが俺には当たり前だった。多分、俺が誰よりも子供だった。馨にコンクールのことを言われるまで、馨や立花ちゃんにずっと甘えていたと気づいたから、それをやめる」

私の肩を掴んでいた夏織さんの手が離れた。
その手は緩やかに私の頬に触れた。そして私との距離を詰める夏織さん。
その真剣な表情に、私はただ見つめることしか出来なくて……

「立花ちゃん。ずっと俺のそばに──」

すっと自然に、夏織さんの唇が私の唇と重なろうとした瞬間。

べちっ! と、夏織さんの横顔にスリッパが飛んで来た。
そしてズルズルとスリッパは下に落ちた。
夏織さんは全く驚いてない様子で「わ、驚いた」と言いながら私から距離をとった。
いったい何が起きたと言うのだろうか。まさか超常現象なのかと思ったとき。

「そこまでにしぃや。クソ兄貴」

はぁはぁと、息を切らしていたスーツ姿の馨ちゃん……じゃなくて、馨先生が私の部屋の扉にいた。
馨先生はキッと夏織さんを睨んだかと思うと、私に詰め寄り。あっという間に、馨先生が来ていたジャケットを私に被せた。

「な、なにっ。いきなり馨先生どうしたのっ!?」

「うるさい。男の前でそんな薄着な姿二度と晒すな。クソ兄貴も男だと用心しろ」

「な、」

あまりの言葉とジャケットから香る、馨先生の香りに言葉が出なかった。
なんだか馨先生に抱きしめてられている気になってしまう。
私がモゴモゴしているうちに、馨先生は次は夏織先生に詰め寄った。

「で、クソ兄貴。立花に何しようと思ってた?」

「まぁ、そこは言わすがものがな、だよね。それよりも良く、俺がここに来たって分かったね?」

「立花のおばさんから連絡あって、飛んで来た。こんなこともあろうかと、兄貴が来たら連絡欲しいって、先におばさんに手を回していて良かったわ」

「あーそこまでは予想してなかったな。ふふっ。立花ちゃんのことが、本当に好きなんだねぇ」

どこか馨先生をからかう言葉に、私が照れてしまいそうになる。しかし馨先生は真剣な表情なまま。

「そうやけど、何か悪いんか」

と、ハッキリ言った。
その言葉に夏織さんから柔らかい雰囲気が消えて、よく分からないけど、ピリッとした空気を感じた。私は本能的に二人の間に割って入った。

「もう、二人とも私の部屋で睨み合わないで! って言うか、ちょっと着替えるから部屋から出て行ってくれないかなっ」

さすがに二人相手にパジャマのままは、ちょっと恥ずかしい。

しかし二人は私をじっと見てから「そのままでも、可愛いけどな」と声を揃えた。
本当に、こんなときだけ息が合うなんて兄弟だなぁと思いながら、私は二人を部屋から追い出すのだった。

さっと着替えた私は、改めて二人から、気持ちとこれからのことを聞かされた。
コンクールは二ヶ月後。
その前半を夏織さん、後半を馨先生のアシスタントとして手伝うこと。
コンクールの一週間前でアシスタントは終了。その一週間、二人は絶対に私と連絡を取らない。その間、私は自分の心とじっくり向き合って、コンクール当日に二人の花を見て、答えを出すこと。

「どっちが優勝しても、急に結婚する気はない。正式な許嫁、フィアンセとして見てほしいだけや。立花の気持ちが最優先やから、断る権利もある」

馨先生がそう言うと、夏織さんが穏やかに続けた。

「俺と馨、どちらも選ばない権利もちゃんとあるよ。そうやって、俺達の関係に決着をつけたいんだ」

私はもっと他の方法が、あるんじゃないかと思った。
いきなりの話に、まだ頭が追いつかない。
しかしコンクールの裏方として関われるのは魅力的だ、と冷静に考える私もいた。

アシスタントに参加資格は必要ないが、コンクールに参加するのは一流のプロばかり。
そのプロに認めて貰えたという箔が付く。
コンクールの裏側を体験出来るチャンスだ。

そんな打算的な考えをよそに、「ちゃんと話し合えば」と言いたくなった。
けれど、それは二人の争いを見たくない、私のワガママかもしれないと気づいた。

窓の向こうを自由に飛ぶ鳥の囀りが部屋に届いたあと、馨先生が静かに口を開いた。

「誰かを選ぶことは誰かを選ばないことや。でも、選ばない人生なんてない。人は常に何かを選び続けていくもんやろ」

静かに自分へ言い聞かせるような馨先生の言葉が、胸に染みた。

私達三人が、全日本・生花コンクールという、花を勝負にした舞台で気持ちを決める。
それは私達らしい、選び方なのかもしれない。
そして、憧れのコンクールの裏側に関われる道でもある。

私は仕事柄、素直にコンクールに関わりたいという気持ちがあると伝えた。
結婚についてはまだ心の整理はつかないけれど──この提案を受け入れると、返事をしたのだった。
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