クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

「でも、立花ちゃんは俺が何をしようが、するっと受け入れてくれるし、普通のことを、普通に受け止めてくれる。君は本当に、自然の中で咲く花だね……馨に手折られるのはもったいない」

頬に当てられた手がするりと唇に当てられたので、思わず身をぱっと引いてしまった。

「あ、あのっ。私が出来ることがあるなら、なんでも手伝います。でも、えーと、急に触られたらびっくりしちゃうので、ごめんなさいっ」

決して夏織さんが嫌いとかじゃなくて、と必死に弁解すればするほど、夏織さんはにこにこと笑うだけ。私が恥ずかしくなるばかりだった。

「本当に可愛い。こーいうのは、観覧車の中やメリーゴーランドに乗った時にやれば良かったんだよね」

「!?」

あっけらかんとして、またドリンクを飲む夏織さん。

「一応、俺は婚約者だし。それぐらいしても問題ないよね。さ、行こう。デートじゃなくて、インスピレーションを楽しみに行こうか」

ん。今デートって言ったのかな?
聞き間違いかと思いつつ、慌てて確かめる。

「問題ありますってば! そういうことは本当の恋人同士がすることです。あと、今、デートって言いませんでしたかっ!? ふふって、妖しく笑わないで下さいー!」

「立花ちゃん。俺はもっと色んな場所を見たいんだよ」

夏織さんが一瞬だけ遠くを見た。
そして、私の手を緩やかに引いて歩き出す夏織さんを私が止められるはずもなかった。

私に触れながら眉根を寄せて、一瞬だけ私に見せた曇った表情はそこには無かった。
それ以降はずっと笑顔のまま。
何か引っかかるけれど、深く考える前に手を引かれた。
こういうサポートもありなのかと思い、その日は遊園地を満喫することになった。

それから──夏織さんは私を連れて水族館や夜景など、およそ華道には縁がなさそうな場所に繰り出した。

そうかと思えば、一日アトリエで花を活けるのをサポートしたり、コンクール会場の下見や打ち合わせ、その他の仕事の裏方に回ったり。
そうして、夏織さんのアシスタント業務はあっという間に終わるのだった。

※

今日からは馨先生のアシスタント期間。
コンクールも目の前に迫って来てる。

馨先生が私を思う気持ちや婚約のこととか、正直夏織さんより意識してしまうところではある、が。
これは仕事なのだからと、意識を切り替えて今日という日を迎えた。

私が夏織さんのアシスタントをしている間、コツコツと馨先生は準備を進めているというのは風の噂で聞いていた。
きっと、今日から本格的にコンクールへ向けてと始動するはず。
私もしっかりと頑張らなきゃと思って馨先生が構えている、高級自宅マンション兼、アトリエに行くと──

「今日から地域の子供を無償で招いて生花教室を開く。その手伝いを頼むわ」

「子供教室?」

思ってもみない言葉に聞き返してしまった。
真っ白で広いダイニングルームに私の声が彷徨う。

「コンクールに向けては他のスタッフとつつがなく、準備して行ってる。立花には後半に合流して貰う流れやから。まずは子供が興味持ちやすい、ガーベラやカーネションを主体としたものを用意するつもりや」

馨先生はテキパキと、美しいマーブル模様が素敵な大理石のテーブルに資料を置いていく。
馨先生のグレーのシックなカジュアルスーツ姿も相まって、青年実業家に呼び出された雰囲気はあるのに、その資料には『わくわく! お花をいけてみよう!』と書かれていてギャップが激し過ぎた。

「ま、待って。馨先生、これはコンクールとどんな関係が?」

すると馨先生は資料から手を離して、私を見つめた。

「立花が兄貴のアシスタントしている間、ずっと色んなことを考えてた。ずっと花を活けてた。その根源にあったのは、兄貴とは違う僕らしさを追い求めていたということ。でも、もっと、一番最初の柔らかな気持ちに気がついた」

「柔らかな気持ち?」

「立花はなんで、花が好きなん?」

凄くシンプルな質問とまっすぐな馨先生の眼差しに一瞬、ドキッとするが私もシンプルに答えることにした。
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