クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。
「それは綺麗だから。うちにお花を買いに来てくれる人は、皆笑顔で帰っていくから、お花が好きになったの」
気恥ずかしいが、それは口に出すとなんとも清々しい気持ちなった。
馨先生にもその気持ちは通じたらしく、馨先生は微笑していた。
しかし、長いまつ毛をそっと伏せて視線を資料に落とした。
「そうやな。俺も同じや。一本でも綺麗やのに、二本になったら、もっと綺麗になるんじゃないかって、そういう興味やった。けど、どんどん……その気持ちは形を変えて行った」
馨先生が俯くと、長いまつ毛は自然と頬に影を作っていく。
「色相、ニーズ、見る人の視線、高価な花器、どの組み合わせが一番受けがいいか。それが兄貴の活ける花と被らないか、なんかそんなことばっかり考えるようになってたって、気づいた」
それは仕方ないことだとも思った。
その模索していく姿を、私はじっと見つめていたのだ。
その姿が私には眩しくて、綺麗で──……
あ。ふいに私の中で閉じ込めていた記憶がぱんっと弾けるような感覚に陥ったとき「なに、惚けてるんや。恥ずかしいやろ」と、馨先生にぺちっとおでこを叩かれた。
「わっ」
その瞬間に弾けたものは刹那に霧散していって、記憶の欠片は溶けていく。
それがなんだったのかと、思うと目の前に馨先生がいて、言葉に詰まった。
そして記憶の残滓は馨先生に見つめられるほどに、すうっと心に馴染んで、消えて行くのを止められなかった。
「わっ、ちゃうねん。そんな訳やから原点に返って、子供達と花を活けてみようと思う。普通に今のままの僕やったら、兄貴に勝てるとは思えない」
「だから、子供の生花教室を?」
「そう。ひょっとしたら未来の人間国宝になる子供が出来るかもしれんし、そう考えたら面白いやろ? それに僕がちゃんと、優勝するから大丈夫」
最後は明るく強気に笑う馨先生。
私も笑ってしまった。
「うん。凄く素敵だと思う。なんか凄く馨ちゃんって感じがするね」
「馨ちゃん?」
「あ。ごめんなさいっ。なんたが懐かしい気持ちになってしまって、つい」
「ふぅん。ところで、兄貴のヤツと立花はデート三昧ってホンマか?」
「デート三昧っ!? 一体誰がそんなことをっ」
「兄貴がやたらとSNSの更新していて、そこにチラホラと立花の後ろ姿が写っていたけど」
「うそっ」
そんなの初めて知った。
夏織さんはやたらと写真を撮っていたけど、それは資料か何かと思っていた。
そこに私が写っていたのだろう。まぁ、後ろ姿だったら、いいのかなぁと思っていると馨先生が、ふうっと息を吐いた。
「これは敵情視察になるんかな。やめとこ。けど、兄貴に変なことはされてへんよな?」
また、ずいっと距離を詰められて焦る。
そんな真剣な目で見られると、好きだとか、結婚とか、そう言った押し殺した感情がざわついてしまう。
だから私は視線を逸らして、一歩後ろに下がった。
「何もなかったです! 夏織さんはいつも通りだったよ。それより、へ、変なことってなに?」
一瞬、馨先生はピタリと動きを止めてから私の耳元で低い声で囁いた。
「それは──立花が隠れてスマホで読んでる、漫画みたいなコト?」
「あ、あの漫画は広告で刺激的な内容で、気になってしまったけだけで、試し読みしかしてなくてっ! まだ課金してないし!」
と、正直に言うと馨先生はクスクス笑った。
「適当に言ったけど、顔真っ赤になりすぎ。どんな漫画読んでねん。立花はいやらしいなー」
「からかったの!?」
「ほんま、揶揄いがいがあるわ。そんな純粋な立花に、兄貴も変なことする気にもならんな。さぁ、僕も頑張ろーっと」
最後には頭を撫でられて、馨先生の手は資料を掴んで私へと渡した。
ほんと、馨先生は昔からこういう意地悪をしてくるのだけど──そんなところが可愛いとか思ってしまう私も私なんだろうと、渡された資料をぱらりと捲るのだった。
気恥ずかしいが、それは口に出すとなんとも清々しい気持ちなった。
馨先生にもその気持ちは通じたらしく、馨先生は微笑していた。
しかし、長いまつ毛をそっと伏せて視線を資料に落とした。
「そうやな。俺も同じや。一本でも綺麗やのに、二本になったら、もっと綺麗になるんじゃないかって、そういう興味やった。けど、どんどん……その気持ちは形を変えて行った」
馨先生が俯くと、長いまつ毛は自然と頬に影を作っていく。
「色相、ニーズ、見る人の視線、高価な花器、どの組み合わせが一番受けがいいか。それが兄貴の活ける花と被らないか、なんかそんなことばっかり考えるようになってたって、気づいた」
それは仕方ないことだとも思った。
その模索していく姿を、私はじっと見つめていたのだ。
その姿が私には眩しくて、綺麗で──……
あ。ふいに私の中で閉じ込めていた記憶がぱんっと弾けるような感覚に陥ったとき「なに、惚けてるんや。恥ずかしいやろ」と、馨先生にぺちっとおでこを叩かれた。
「わっ」
その瞬間に弾けたものは刹那に霧散していって、記憶の欠片は溶けていく。
それがなんだったのかと、思うと目の前に馨先生がいて、言葉に詰まった。
そして記憶の残滓は馨先生に見つめられるほどに、すうっと心に馴染んで、消えて行くのを止められなかった。
「わっ、ちゃうねん。そんな訳やから原点に返って、子供達と花を活けてみようと思う。普通に今のままの僕やったら、兄貴に勝てるとは思えない」
「だから、子供の生花教室を?」
「そう。ひょっとしたら未来の人間国宝になる子供が出来るかもしれんし、そう考えたら面白いやろ? それに僕がちゃんと、優勝するから大丈夫」
最後は明るく強気に笑う馨先生。
私も笑ってしまった。
「うん。凄く素敵だと思う。なんか凄く馨ちゃんって感じがするね」
「馨ちゃん?」
「あ。ごめんなさいっ。なんたが懐かしい気持ちになってしまって、つい」
「ふぅん。ところで、兄貴のヤツと立花はデート三昧ってホンマか?」
「デート三昧っ!? 一体誰がそんなことをっ」
「兄貴がやたらとSNSの更新していて、そこにチラホラと立花の後ろ姿が写っていたけど」
「うそっ」
そんなの初めて知った。
夏織さんはやたらと写真を撮っていたけど、それは資料か何かと思っていた。
そこに私が写っていたのだろう。まぁ、後ろ姿だったら、いいのかなぁと思っていると馨先生が、ふうっと息を吐いた。
「これは敵情視察になるんかな。やめとこ。けど、兄貴に変なことはされてへんよな?」
また、ずいっと距離を詰められて焦る。
そんな真剣な目で見られると、好きだとか、結婚とか、そう言った押し殺した感情がざわついてしまう。
だから私は視線を逸らして、一歩後ろに下がった。
「何もなかったです! 夏織さんはいつも通りだったよ。それより、へ、変なことってなに?」
一瞬、馨先生はピタリと動きを止めてから私の耳元で低い声で囁いた。
「それは──立花が隠れてスマホで読んでる、漫画みたいなコト?」
「あ、あの漫画は広告で刺激的な内容で、気になってしまったけだけで、試し読みしかしてなくてっ! まだ課金してないし!」
と、正直に言うと馨先生はクスクス笑った。
「適当に言ったけど、顔真っ赤になりすぎ。どんな漫画読んでねん。立花はいやらしいなー」
「からかったの!?」
「ほんま、揶揄いがいがあるわ。そんな純粋な立花に、兄貴も変なことする気にもならんな。さぁ、僕も頑張ろーっと」
最後には頭を撫でられて、馨先生の手は資料を掴んで私へと渡した。
ほんと、馨先生は昔からこういう意地悪をしてくるのだけど──そんなところが可愛いとか思ってしまう私も私なんだろうと、渡された資料をぱらりと捲るのだった。