クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。
その中で人だかりが出来ていたブースがあった。
どうやら連続して二つのブースが注目を浴びているようだ。
本来は静かに鑑賞するのがマナーなのに、ひそひそと囁く声が聞こえる。
──橘兄弟、やってくれましたね。
──これはどう、審査するんでしょう。
──なんという表現力。まるで風神と雷神の演舞だ。
そんな言葉にはっとして、人が少ない場所に体を割り込んでブースを見て息を呑んだ。
そこには鮮やかな花達の色調がどこまでも、のびのびと表現されていた。
室内だというのに、このブースだけは花が風に舞い踊り、命という力を寿いでいるかのような、花の喜びに満ち溢れた空間だった。
証明は穏やかな優しい光。
花器は大きなガラス。
私にはそれが花を受け止める命の方舟に見えた。
「なんて瑞々しいお花達。凄い」
こんな躍動感溢れる生花を作ったのは──
ネームプレートを見て驚く。
「この作者は橘夏織、さん──!?」
今までの夏織さんが得意とする、橘流の古典スタイルはどこにもなかった。
ただ、花が咲き誇る喜びと自由。
その一瞬の命のきらめきを切り取った、革新的なスタイルが見る者を虜にしていた。
皆が驚いて口を開く理由がわかった。
じゃあ、馨先生は一体どんな生花を生けたというのだろうか。
私の足は考えるよりはやく、隣のブースへと動いていた。そして、ブースの前で自分でも気づかないうちに、ほうっと感嘆の言葉を漏らした。
そこには真っ黒な空間に、稲妻がぬらりと縫い止められたかのような。
空間を縦に引き裂かんばりの、白百合のまっすぐとした花があった。
その白い百合の花は、真っ白に内側から発光している力強さを宿していた。
「──あぁ、この光は馨ちゃんそっくりだね……」
私が幾度なく、馨ちゃんに眩しさを感じていた理由がわかった。
気がつけば昔の呼び名になっていた。
それは好きになった理由もちゃんと、思い出したからだ。
気がつけば、はらりと涙が流れ、私は全てを理解した。
澄んだ頭で目の前の花を見つめ続ける。
照明は真っ直ぐ上からの雷光に似た、スポットライトが一つだけ。
花器は金。
これは橘流に通じる古典スタイルを踏襲しながら、モダンスタイルを表した生花だと感じた。
古典という王道の力強さと新しい表現。
それは見る人達をひれ伏せさせる、王者の風格すら漂う生花。
そんな作品を作った作者のネームプレートには「橘馨」と刻まれていた。
「馨ちゃんは、この世界がこんなふうに見えているだね。素敵だね」
思わず、白百合に話しかける。
そしてふと、子供教室のことが思い出された。
馨ちゃんは一輪の花を一生懸命に生ける子供を、凄く褒めていた。
そんな純粋な気持ちで、作品に向き合ったのだろうと感じた。
頬を濡らした涙をハンカチできゅっと拭う。
この光景を涙で滲んだ視界で見るのは失礼だ。
網膜と頭にこれでもかと、二人の作品を焼き付ける。
二人は今までの全く違う、スタイルでコンクールに挑んだ。
お互いがお互いを越えるために、相手の領域を飲み込んで昇華した。
それは二ヶ月間、試行錯誤した結果ではなく。
今まで二人が生きて来た時間全てを差し出して、たどり着いた答えがここにあると感じた。
どちらも本物の天才。
素晴らしい才能に間違いない。
しかしコンクールの優勝者は一人だけ。
私も選べるのは一人だけ。
馨ちゃんに振り向いて貰えず、夏織さんとの許嫁が本当になり、このまま私達結婚するのかなと考えたことはある。
けれども……私は──
「二人とも、本当に素敵な作品をありがとう。私、決めたよ……」
私は時間が許す限り、その場で二人の才能をじっと見続けるのだった。
どうやら連続して二つのブースが注目を浴びているようだ。
本来は静かに鑑賞するのがマナーなのに、ひそひそと囁く声が聞こえる。
──橘兄弟、やってくれましたね。
──これはどう、審査するんでしょう。
──なんという表現力。まるで風神と雷神の演舞だ。
そんな言葉にはっとして、人が少ない場所に体を割り込んでブースを見て息を呑んだ。
そこには鮮やかな花達の色調がどこまでも、のびのびと表現されていた。
室内だというのに、このブースだけは花が風に舞い踊り、命という力を寿いでいるかのような、花の喜びに満ち溢れた空間だった。
証明は穏やかな優しい光。
花器は大きなガラス。
私にはそれが花を受け止める命の方舟に見えた。
「なんて瑞々しいお花達。凄い」
こんな躍動感溢れる生花を作ったのは──
ネームプレートを見て驚く。
「この作者は橘夏織、さん──!?」
今までの夏織さんが得意とする、橘流の古典スタイルはどこにもなかった。
ただ、花が咲き誇る喜びと自由。
その一瞬の命のきらめきを切り取った、革新的なスタイルが見る者を虜にしていた。
皆が驚いて口を開く理由がわかった。
じゃあ、馨先生は一体どんな生花を生けたというのだろうか。
私の足は考えるよりはやく、隣のブースへと動いていた。そして、ブースの前で自分でも気づかないうちに、ほうっと感嘆の言葉を漏らした。
そこには真っ黒な空間に、稲妻がぬらりと縫い止められたかのような。
空間を縦に引き裂かんばりの、白百合のまっすぐとした花があった。
その白い百合の花は、真っ白に内側から発光している力強さを宿していた。
「──あぁ、この光は馨ちゃんそっくりだね……」
私が幾度なく、馨ちゃんに眩しさを感じていた理由がわかった。
気がつけば昔の呼び名になっていた。
それは好きになった理由もちゃんと、思い出したからだ。
気がつけば、はらりと涙が流れ、私は全てを理解した。
澄んだ頭で目の前の花を見つめ続ける。
照明は真っ直ぐ上からの雷光に似た、スポットライトが一つだけ。
花器は金。
これは橘流に通じる古典スタイルを踏襲しながら、モダンスタイルを表した生花だと感じた。
古典という王道の力強さと新しい表現。
それは見る人達をひれ伏せさせる、王者の風格すら漂う生花。
そんな作品を作った作者のネームプレートには「橘馨」と刻まれていた。
「馨ちゃんは、この世界がこんなふうに見えているだね。素敵だね」
思わず、白百合に話しかける。
そしてふと、子供教室のことが思い出された。
馨ちゃんは一輪の花を一生懸命に生ける子供を、凄く褒めていた。
そんな純粋な気持ちで、作品に向き合ったのだろうと感じた。
頬を濡らした涙をハンカチできゅっと拭う。
この光景を涙で滲んだ視界で見るのは失礼だ。
網膜と頭にこれでもかと、二人の作品を焼き付ける。
二人は今までの全く違う、スタイルでコンクールに挑んだ。
お互いがお互いを越えるために、相手の領域を飲み込んで昇華した。
それは二ヶ月間、試行錯誤した結果ではなく。
今まで二人が生きて来た時間全てを差し出して、たどり着いた答えがここにあると感じた。
どちらも本物の天才。
素晴らしい才能に間違いない。
しかしコンクールの優勝者は一人だけ。
私も選べるのは一人だけ。
馨ちゃんに振り向いて貰えず、夏織さんとの許嫁が本当になり、このまま私達結婚するのかなと考えたことはある。
けれども……私は──
「二人とも、本当に素敵な作品をありがとう。私、決めたよ……」
私は時間が許す限り、その場で二人の才能をじっと見続けるのだった。