クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

よるに、さくはな

僕はコンクール終了後、全てを出し切って、意識が朦朧としつつ家に着くなり爆睡した。
とにかく寝た。泥のようにひたすら寝た。

そして真夜中に起きて、食事を適当に食べてから、風呂に入った。
スマホのメッセージを見ながら、水を飲みにキッチンへ向かった。

スマホを見ると、兄貴から「一緒に食事しようよ」と、何時間も前に誘いのメッセージが来ていて笑った。

この時間にはとっくに食事は終えているだろうから「今、起きた。また今度」と、短い返事を返した。

スマホをキッキンの上に置いて、そして冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、口をつける。

本当は兄貴に聞きたいことがたくさんあった。
喋りたいことがたくさんあった。
コンクールのブースが、なんの因果か隣同士だったこと。
コンクール参加者の荷物到着が遅延して、肝を冷やしたこと。

「見立てどおり、指定花材部門は余裕やったな」

僕と兄貴はほぼ同じ時間に作り終えた。
多分、技術的な正確さは兄貴が上。
僕は花材の使い方で軍配が上がると思った。
あとはやはり、生け込みで勝敗が決まるだろう。

全てを出し切った。
今までの自分のコンプレックスを乗り越えようと、真っ向から古典というスタイルに立ち向かった。
それは子供達や立花から花を楽しむ心を見て、感じて、生花とはなんぞやと、自分に何度も何度も自問自答して出した答え。

一輪の花に全ての美しさは備わっている。
だから人は花に触れたがる。
子供教室で特にそれを得た。
何本も選ぶ子もいれば、好きな花を一つだけ選んで、じっくり楽しむ子もいた。
僕はその後者に感銘を受けた。
それを限界まで引き出すことに注力したのだ。

「やりきった。後悔はない。失敗もない。負けるつもりは毛頭ない」

華道家として男として、今の自分の全てを出し切った。きっと兄貴も同じだろう。
手にしていたペットボトルに力が入り、べきりと音を立てた。

兄貴が隣で作業していたのは知っているが、どんな生け込みを作ったのかは知らない。
コンクール参加者は自分の作品だけに集中する。時間が経過したら、即座にその場から退出がルール。

「朝一番に見に行ってもええんやけどな」

しかし、僕にはまだやることがある。
今日の正午ちょうどに、コンクールの結果が優勝者だけに連絡が来る。
それを思うと、ゆっくり作品を見る気分にはなれない。

そしてちらりとスマホを見ると、寝る前に立花からメッセージが来ていたことを思い出す。
それは僕と兄貴の二人に宛てられたメッセージだった。
『明日、お昼までに橘様のお家にお伺いします。それが私の答えです。コンクールお疲れ様でした』と、受信していた。

こうなれば自宅待機するしかない。
僕も兄貴も橘だ。
立花が昼までにここに来なかったら、振られるということだろう。

「それをまぁ、上手いこと文面で書いたやん」

ふっと笑うが立花からも、コンクールからもメッセージが来ない場合は、どこか外国に逃亡してやろうかと一瞬考えてしまう。

「いや、大丈夫。立花も来るし、コンクールからの連絡も来る」

言い聞かすように小さく嘯きながら、頭を振って最悪な未来のビジョンは打ち消した。
ペットボトルをシンクの上に置いて、その代わりに、シンクの上に幾つか置いてある切りバサミの一つを手に取った。

キッキンの時計を見れば夜中の三時過ぎ。

「まだ眠たいな」

連日夜遅くまで、コンクールのために起きていた。
まだ、寝足りない。
明日に備えて寝るべきだろうが、僕はあの約束を守るために、今からあることをしなければならない。

これも惚れた弱みだろう。
そう思いながら、使い慣れた切りバサミを握る。

『馨ちゃん。私、馨ちゃんのお嫁さんになりたいから、お花がいっぱいあるところで告白してね!』

片時も忘れたことがない台詞が頭によぎった。
口元が緩む。そして眠気が遠ざかり、やる気が湧いた。
そのままリビングで作業を続け、気がつけば意識を失っていた。

作業がほぼ終了したのと同時に、糸がぷつりと切れたかのように、また寝てしまったのだ。
そんな泥のような眠りから僕を引き上げたのは、キッキンから響く、スマホの機械的な着信音。

気がつけばリビングには明るい陽が差し込んでいる。
僕はスマホと音に促されるように、のろのろと起き上がるのだった。
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