クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

まんかいに、はなひらく

私は走っていた。
昨日の橘兄弟の作品を見て、私も決めたことがあった。
作品から、二人が二人の道を歩んでいく強さを受け取った。
私もそうでありたいと、家に帰ってから、たくさんの資料を読み漁った。
早く寝るべきだったのに、明日の正午ぴったりにコンクールの勝敗が決まること。
私が告白しに行かなければ、いけないことを考えると、頭がグルグルして目が冴えてしまい、ついつい刺激的な漫画に課金してしまったりして──寝坊した。

「これじゃ、お昼ギリギリに着いちゃう! スマホで連絡するわけにも、いかないしっ」

昨日、自分から家に伺うとメッセージを送った。
こういう大事なことは直接言うほうが良いと思ったからだ。

私は大急ぎで身支度を整えて、桜色の着物の裾を揺らしながら、あの人──馨ちゃんに想いを告白するために、タクシーを捕まえて馨ちゃんの家へと急いだ。

「やっと馨ちゃんの家に着いたっ」

はぁはぁと息を切らしながら、馨ちゃんの高級マンションに辿り着いた。
いつも通り、エントランスはオートロックなので、部屋番号を押すけど。

「あれ。反応がない?」

部屋番号を間違えたかと、ゆっくりとボタンを押すが返答はない。
エントランスの時計を見ると、ちょうど十二時になっていた。

「ひょっとして、私はもう来ないだろうとか先走って、家を出て行ったとか!?」

いやいや、それともコンクールから連絡が来て、その対応でそれどころじゃないとか。
その場でワタワタしていると、ちょうどフード配達の人が来て、ガチャリとエントランスの扉が開いた。

私は迷うことなく、その人に便乗してマンションの中へと入り込んだ。
エレベーターがゆっくりと上がる速度にやきもきしながら、最上階に着くと、着物を着ているのも忘れてダッシュした。

履き慣れない草履で廊下を転びそうになりながら、やっと馨先生の家に着いた。
急いでインターホンを押すけど、やはり反応はなし。
ドアも叩くけど、中からの反応はなかった。

「やだ、馨ちゃん、本当にどこかに行っちゃったの?」

まだ、私は気持ちをちゃんと伝えてないのに! 無我夢中でドアノブに手を掛けると、ガチャッと動いた。

「あ、開いてる?」

そう思った時には勝手にドアノブを下げて、扉を開けていた。

広い玄関には馨ちゃんの靴がある。
いつもの長い廊下、その先にリビングがあるけど、誰かがいる気配はしない。
それが不安で「馨ちゃん、居ますかっ!」と声を張り上げて、部屋の中へと入っていった。
 お願い。部屋でぐっすり寝ているだけだよね。
どこかに行かないで、私は馨ちゃんのそばに居たいの!

そう祈りながら、真っ先に飛び込んだリビングは──いつもの白くて広い空間じゃなくて。

「お花がたくさんある……どうして?」

白い薔薇、赤いガーベラ、ピンクのスイートピー、黄色のフリージア、青の矢車草に、緑のテマリソウ。
花の香りがとても芳しい。

その他にも沢山の花と緑でリビングは彩られていた。百花繚乱。そんな言葉が頭に浮かぶ。
咲き乱れる花の中へ、私はそろりと踏み入った。

壁には、フラワーアレンジメントでよく見られる見事なウォールフラワーがあった。
ダイニングテーブルには、ウェディングテーブルの装花を彷彿とさせる華やかな花達が幾つもあった。
その全ては大変美しい仕上がりで、飾った人には相当な技術力があると分かった。

「それに床にはブーケが沢山。凄い、まるで花のパーティ会場みたい……!」

花に目を奪われて、この部屋の主人のことを一瞬だけ忘れた瞬間。

ダイニングルーム奥の扉が静かに開いた。
そこには真っ白いルームウェアを着た馨ちゃんが、スマホを握りしめながら立っていた。
よく見たら前髪が濡れている。顔でも洗っていたのだろうと思った。

「馨ちゃん!」

私が名を呼ぶと、馨ちゃんはハッとした表情になった。

「立花か? ってことは──」

馨ちゃんは言葉を言い終わらぬうちに、私にばっと近寄った。
その勢いで周りの花がそよぎ、花びらがふわりと舞う。

まるで私が昔。馨ちゃんに望んだ、お花がいっぱいある場所そのもの。私の描いた空想が現実になった。
そう思った瞬間には、ぎゅっと抱き締められていた。
馨ちゃんの体の温かさと、腕の逞しさに心臓が高鳴る。

「か、馨ちゃん、一体どうしたの?」

「どうしたも、こうしたもあるか。ここに立花が来た。昔の呼び名になったってことは……そう言うとこやな? まさかとは思うけど、兄貴と間違えて来たとか、そんなオチはないな?」

こくりと頷くと、目の前にすっとスマホを差し出された。
その画面にはコンクールからのメッセージがあり──『優勝』という文字があった!
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