クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。
「脅かすなや。心臓に悪いわ。ってか、まだ色々と仕事あるんやないの?」

「まぁね。でも俺が仕事の手を止めないと、立花ちゃんや他のスタッフが帰り辛いから。さっきスタッフと一緒に立花ちゃんを帰らせたとこ。立花ちゃんは俺達に差し入れぐらいさせてよって、最後まで騒いでいたよ」

「立花らしいな」

その様子がありありと想像出来て笑ってしまう。

「けど馨から『話がある、屋上で待ってる』ってメッセージがスマホに来ていたから、急いでこっちに来た」

「そやな。わざわざ来て貰って助かるわ」

「話ってアレかな。『全日本・生花コンクール』に馨が出るっていうやつ?」

「いきなり当てるな」

「浅見さんから聞いた。俺もね、前からスポンサーに出ろと言われていたところではあるんだけどね……馨は出たらいい。馨だったら優勝間違いない」

「兄貴も出ろよ」

「別に俺は出なくても仕事は上々。それに俺が出たら、馨が負けるけどいいの?」

さらっと当たり前のように言われて、苦笑すらできなかった。

「はぁ。その勝つのが当たり前の思考。才能あるやつの無自覚の煽り。僕、実は昔からそれ、大っ嫌いやねん」

「俺は本当のことしか言わないよ」

「裏表なくて助かるけど。おかげで長年巣食っていた淀みを、やっと吐き出せるわ。僕に負けたら立花の許嫁を撤回しろ。僕が立花の許嫁になって結婚する」

「へぇ。そんな急なプロポーズ。立花ちゃんは、驚いて断るかも知れないよ?」

僕と兄貴の間に夜風がさぁっと通り過ぎる。

「僕が立花を口説き落とすから問題ない。兄貴が余計な心配はしなくていい。それとも、急やなかったら反対せんのか?」

兄は珍しく迷ったように沈黙した。その隙を逃さず、畳み掛ける。

「なら聞くけど。兄貴は一度でも『許嫁』を嫌だと言ったことないやろ」

「そうだね。別に立花ちゃんが俺のお嫁さんになっても、問題ない存在だからね。おっと、睨まないでくれ。馨。立花ちゃんの存在を軽んじている訳じゃない。俺はこんな人間だからね。恋愛感情を表現し辛い」

ふむと、困ったように顎をさする兄。
それは凡人にどう己の理屈を分かって貰えるかのような、天才がするジェスチャーに見えた。
「その上で立花ちゃんは好き嫌いとかじゃなくて、俺のパートナーとして最適だ。あの子はなんていうのかな、天性の認識能力がある。他者を繋ぐバランサーみたいな。それを俺は」

兄の言葉を最後まで聞くことが出来ず、「立花を道具みたいに言うな」と、口を挟んでしまった。
兄はすっと肩を落とした。

「そんなつもりはないんだけどね。だから、今まで俺は立花ちゃんの気持ちを考えて、無理に結婚を迫ることはしなかっただろ?」

物は言いよう。
そんな言葉が頭に浮かんだが、僕自身も長く気持ちを有耶無耶にしてきた。
だから言い返すことはやめた。ただ、今の気持ちを伝える。

「僕はずっと、兄貴の影になるのが嫌で、兄貴とは違う活躍の場を求めて自分なりの華道や生き方をしてきた。今回の個展で兄貴はもっと飛躍するのは間違いない。花を見てわかった。兄貴を超えれるものは現状おらん。だから──」

「だから?」

「乗り越えられない壁を乗り越えてこそ、男やろ。だからコンクールに出て僕と勝負をしろ」

鋭く僕が兄を見つめると、兄はにっこりと微笑んだ。

「じゃ、勝ったら俺が立花ちゃんと本当に結婚しても文句は言わない?」

「せめて、僕に勝ってからその台詞を言ってくれ」

相手が余裕綽々で嫌になる。
しかし、男に二言はない。
そう思ったとき、ゴトっと何か重たい音が背後から聞こえた。兄と二人、何だろうと振り返ると──そこにはペットボトル二つを落とした、呆然と立つ立花が居たのだった。
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