クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

こころ、はなぐもり

「ど、どうしてこんなことになったんだろう」

分からない。全く訳が分からない。
私は訳の分からない悩みを抱えながら、自室のベッドの上で丸くなっていた。
今日はオフ。実家暮らしで、台所に行けば私のご飯があるという素敵な環境。
何も気にせず幾らでも惰眠を貪れるのに、そんな気にもならず、何度目かの寝返りを打つ。

閉ざしたカーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいるが、やっぱり起きる気にならない。

そして何度も見たスマホの画面を、もう一度見る。
そこには『橘兄弟、全日本・生花コンクールに出場!』『華道界以外にも、芸能界も大注目の対戦』『観覧チケットは異例の完売』と、数々のwebメディアが大々的に取り上げていた。
ネットニュースや地上波のワイドショーでも、二人は取り上げられている。

しかし、そのどこにもコンクールに出場する本当の経緯は書いていない。

「書けるはずない。書いたところで誰も信じない。まさか、私が原因だなんて……!」

自分で言っていて恥ずかしい。
あまりにも現実味がない。
スマホを放り出して、枕に顔をぼふっと埋める。
ふわっと枕からピローミストの良い香りがするけど、私の心を落ち着かせてはくれなかった。

目を瞑れば、一週間前の屋上の光景が蘇る。

個展初日の閉館後、お弟子さん達と後片付けなどをしていると、夏織さんがやってきた。
その場で労いの言葉と一緒に、一人ずつ金一封の入った封筒を渡して、私達を追い出すように帰らせた。

けれども私は馨先生の姿も途中から見なかったことが気になって、帰ったふりをして夏織さんの後を追い、差し入れのペットボトルを二つ買って屋上へ向かった。

──そこで、全部聞いてしまったのだ。二人の気持ちにコンクール、許嫁に結婚……。

「そりゃ、持っていたペットボトルぐらい、落としてしまうわよ」


驚く私に、二人はさらっと『そう言うことだから。また今度詳しく説明する』と、息の合ったコンビネーションを見せて、私を煙に巻いた。

「そーいうときばっかり、兄弟仲いいんだから! その後、夏織さんは個展開催中だからってのほほんと話を逸らすし、馨先生は打ち合わせとかで、全然連絡も付かないしっ!」

そして三日前。
個展の閉会の挨拶で、橘兄弟は二人揃ってコンクールへの参加を表明した。
参加表明は瞬く間に広がって世間を騒がせ、私の胸も大いに騒がしていたのだった。

「馨先生が言っていたことは本当なのかな……」

『僕が立花の許嫁になって結婚する』
馨先生の言葉が蘇り、もどかしい気持ちになった。

ごろんと寝返りをうって、カーテンから溢れる光をなんとなく見つめる。

あぁ、そうだ。
私が昔、馨先生に告白したときも、こんな白い光が降り注ぐ良い天気だった。
そんなことすら、私はまだ覚えている。
好きという気持ちは、長年かけて見ない振りをしたり、真っ白い光の中に溶かして見えなくしてきたのに。

「どうしたらいいのか、分からないよ」

光を見つめ過ぎて、目が痛くなった。
きゅっと目を閉じて瞼の裏の暗闇に安らぎを求めるが、白い光はまだチカチカして、網膜に焼き付いているみたい。

眩しい。
まるで馨先生みたい。
そんな風に思っていると。

「立花ちゃん。おそよう。もう十三時になるけど?」

「えっ」

今、夏織さんの声がしなかったかと、ゆるゆると目を開くと、目の前に夏織さんがいた。

「あ、やっと起きた」

クリーム色の上品な着物に、髪を横に流してにっこりと笑う夏織さんは、女優さんみたいに綺麗だった。
しかし、ここは私の部屋である!
さらに私はパジャマ姿で、すっぴんで、髪もボサボサ!
< 7 / 19 >

この作品をシェア

pagetop