クールな華道家は幼馴染に、百花繚乱の愛を告白する。

「!?」

驚いて声も出せずにベッドの上で身を起こしたものの、なんて言っていいか分からず固まっていると、夏織さんはごく自然にベッドの横に腰を下ろして微笑んだ。

「驚いたよね。一応、立花ちゃんのお母さんに許可を貰って、部屋に上がらせて貰った。ノックをしたけど気づいて貰えなかったから、勝手に入ってしまった。ごめんね」

お母さん!
幾らなんでも年頃の娘の部屋に男の人を通すなんて、と思ったけど、夏織さんのお願いを断れる人なんて居ない。私は肩をがっくりと落とした。

「い、いえ。昼まで寝ている私が悪かったんです」

さすがに、その寝ていた原因の半分が目の前にいるとは言えなかった。

「ふふっ。今日はね、説明しに来た。コンクールや結婚のこと」

「!」

「本当だったら、こういうとき馨が説明すると思うんだけど。あいつは今、仕事が立て込んでいて、落ち着いたら立花ちゃんに説明すると言っていたけど……先に俺が来た。一応許嫁だしね」

馨先生が仕事で忙しいのは知っている。
でも、そんな風に思っているなら、やっぱり少しでも連絡くれたらいいのにと思った。

それが馨先生らしいといえば、馨先生らしいのだけども。

しかし夏織さんがここに来るのは本当に意外でそれだけ、私に対して真剣に思ってくれたのだろうとも思った。

「立花ちゃんにちゃんと説明しないまま、待たせるのはフェアじゃないから。ちょっとこのまま、話してもいいかな?」

夏織さんは、さらりと流れ落ちる黒髪を艶やかに耳の後ろに掛けてから、私の顔をじっと見つめてきた。
雰囲気からやはり、からかいに来たわけではないと分かった。
パジャマ姿で様にはならないが、背筋を正して、夏織さんの話を聞くことにした。
「屋上で聞いたことは、全部本当だよ。馨は本気で、立花ちゃんと結婚するつもりだ」

「──本当に?」

「うん。そして俺は勝負に勝ったら、立花ちゃんをちゃんと許嫁として迎えたいと思っている。口約束じゃなくてね」

「……」

何か言わなきゃと思うのに、すぐに言葉が出てこない。
夏織さんから目を逸らすように、私はベッドから立ち上がって、カーテンをゆっくり開いた。

ありふれた家の街並みと、うちの庭の木の緑が広がっている。
それでも外はとても眩しく、いつもより優しい光に満ちているように見えた。
ガラス窓に映る自分に問いかけるように、胸の中のざわつきを整理しようとする。
二人がそんな気持ちだったなんて。

私は二人と比べれば、平凡な存在でしかない。
橘兄弟は私にとって自慢出来る幼馴染で──お兄さんの夏織さんは許嫁。弟の馨先生は初恋の人。

三人がそれぞれ相手を大事にしてきたから、この複雑な関係は、壊れることなく今までやってこれたのかもしれない。
少しでも気持ちがズレたら、どこかで大変なことになっていた。そうは思うのに、整理しようとするほど、ざわつきは収まらなかった。

それでも黙っていてはダメだと思い、私は夏織さんに向き直って、静かに口を開いた。

「私、昔に馨先生に告白しているんです。でも、断られたんです。今の話を聞くと、馨先生は……私のことを想っていたけど、夏織さんの許嫁だから身を引いた。それは本当なんですね?」

ぐっと拳を握る。
自分でもなんと言っていいか分からない感情が、胸にあふれた。

「そう。馨は負けん気が強いからね。筋を通したかったんだろう。幼いながらに、正々堂々と立花ちゃんを迎えたかったんじゃないかな」

穏やかな夏織さんの声。
夏織さんがいつも本当のことしか言わないのを、私は知っている。だから馨先生本人から聞くより、説得力があるのかもしれない。
それでも納得し難い感情が、口から溢れた。
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