ただ今の先に、何度でも恋に落ちる2人がいる。
一章・二つの種
Scene 1
『まもなく2番線に、半蔵門線直通、準急・押上行きがまいります。』
池尻大橋駅のアナウンスが流れ、しばらくすると、いつもと同じ列車がホームドアの向こうに到着する。
いつもの車両。いつもの通勤経路。
混雑した車内に揺られるのは、渋谷までの一駅だけ。そこから列車は半蔵門線に入り、そのまま大手町へ向かう。
毎朝、約40分。
いつもと変わらない通勤時間。
それなのに今日は、やけに取り留めのないことが頭に浮かんでくる。
別に、何かあったわけでもない。
「仕事にやりがいを感じているし、不満もない。それなのに、なんでだろう?」
そんな思考が、いつの間にか昔の恋愛の記憶へとつながっていった。
「今まで、それなりに恋もしてきた。」
ふと考えた。
「最後に付き合っていた彼と別れてから、一年ほど。」
「それなのに、もう顔も表情も声も、記憶の中でぼやけ始めている。」
「こうして定期的に、脳にたまった不要な記憶のキャッシュを整理して、消去していくのだろうか?」
「だとしたら、不意に更新が始まり、自分では制御できない厄介な自動更新システムだ。」
「あっ?! そろそろかな??」
思わず、いつもカバンに入れているはずのポーチを確認したくなった。
大きなトートバッグに腕を入れ、手探りで確かめる。
「あったぁ」
安堵の声が漏れた。
メトロの扉にもたれ、トンネルの壁を流れていく明かりをぼんやりと眺めながら、
「やれやれですぅ……」
と、小声でつぶやいてみた。
その声が『サザエさん』のタラちゃんに似ていて、自分でおかしくなった。
「でも、いつまでもタラちゃんのままではいられない。」
今日は銀行の担当者が来る。進行中のプロジェクトについて、資金調達の話を詰める大事な日だ。
『まもなく2番線に、半蔵門線直通、準急・押上行きがまいります。』
池尻大橋駅のアナウンスが流れ、しばらくすると、いつもと同じ列車がホームドアの向こうに到着する。
いつもの車両。いつもの通勤経路。
混雑した車内に揺られるのは、渋谷までの一駅だけ。そこから列車は半蔵門線に入り、そのまま大手町へ向かう。
毎朝、約40分。
いつもと変わらない通勤時間。
それなのに今日は、やけに取り留めのないことが頭に浮かんでくる。
別に、何かあったわけでもない。
「仕事にやりがいを感じているし、不満もない。それなのに、なんでだろう?」
そんな思考が、いつの間にか昔の恋愛の記憶へとつながっていった。
「今まで、それなりに恋もしてきた。」
ふと考えた。
「最後に付き合っていた彼と別れてから、一年ほど。」
「それなのに、もう顔も表情も声も、記憶の中でぼやけ始めている。」
「こうして定期的に、脳にたまった不要な記憶のキャッシュを整理して、消去していくのだろうか?」
「だとしたら、不意に更新が始まり、自分では制御できない厄介な自動更新システムだ。」
「あっ?! そろそろかな??」
思わず、いつもカバンに入れているはずのポーチを確認したくなった。
大きなトートバッグに腕を入れ、手探りで確かめる。
「あったぁ」
安堵の声が漏れた。
メトロの扉にもたれ、トンネルの壁を流れていく明かりをぼんやりと眺めながら、
「やれやれですぅ……」
と、小声でつぶやいてみた。
その声が『サザエさん』のタラちゃんに似ていて、自分でおかしくなった。
「でも、いつまでもタラちゃんのままではいられない。」
今日は銀行の担当者が来る。進行中のプロジェクトについて、資金調達の話を詰める大事な日だ。