孤独なあなたに、夕食を。 〜食べられないCEOの胃袋を掴んだら本気の口説きが始まりました〜
「なんとなく君は……根が真面目っていうのかな。突っぱねて帰るタイプかと思ったよ」

「今の私が失うものといったら時間ぐらいですから」

「へぇ。その時間は惜しくなかったのか?」

拘束されただろ、と付け足され、由香は小さく笑った。

――あの手紙の言葉と一緒だ。

アランにとっては何気ない言葉だったのだろうが、傲慢な物言いが並ぶ中に、”君が選べ”という短いフレーズは由香の心を小さくノックしていた。

「いいじゃないですか。これから食べますか?それとも……」

「食べる。この香りは嫌いじゃない」

即答したアランはオープンキッチンの方へ歩みだしたので由香は慌てて後を追った。

てっきり食事用の席で審査員の如く待ち構えるかと思えば、調理したものに興味があるらしい。

「良かったです。あ、でも仕上げをするので、十分ほどは時間が……」
「分かった」

そう返事を返したものの、その後もアランは由香の行動を興味深そうに眺め見ていた。

――座らないのかな。ちょっと気まずい……。

そんなことを内心独り言ちつつ、出来上がったものを食卓へ運ぶと、席に着く前にアランはじっと料理を見つめ尋ねる。

「これは?」

「和風ロールキャベツと、雑炊です」

用意したのは日本食。
なぜなら、この部屋には栄養ゼリーのストックらしき箱が異常に詰まれてあったから。

食文化を押し付ける気はないが、アランが食事を蔑ろにしている可能性が鑑みられるなら、総合的に胃に優しい料理が良いだろうと、辿り着いた答えだ。

「俺の知ってるロールキャベツと匂いが違うな」

「和風なので、醤油と出汁をベースにした餡かけに……中身は豆腐と鶏むね肉で脂身の少ないものにしてます」

実はその中に人参とほうれん草も小さく刻んで忍ばせている。

「好みが分からなかったので、食べてみて気になるところがあれば教えてください。明日の夕食に反映させます」

そう告げるとアランはやっと席につき、フォークを取った。
一瞬、気のせいだろうか、彼の指が震えた気がした。

しかし一呼吸置いて、アランは一口運び咀嚼する。

「…………悪くないね」

たった一言だが、由香はほっと胸を撫で下ろした。

「良かった……」

更にもうひと口、ふた口、と食べて、それからアランは途中でフォークを置くと視線を由香へ向けた。

「さっき好みと言ったけど、君に任せるよ。帰りの時間は事前に知らせる。連絡先を交換しよう」

言ってスマホを差し出され、交換したあとにアランは「今日はもう帰っていい」と言った。

「でもまだ、片づけが……」

「ホテルの人間にさせる。それと食材だが、コンシェルジュには三時までに言っておけば手配できるはずだ。明日もよろしく」

「分かりました」

どうやらこれ以上の滞在は不要らしい。
まだまだ尋ねたいことはあったが、アランの言葉に大人しく従い由香はホテルを出た。

そして翌日には煮込みうどん、三日目は親子丼と、由香はあえて家庭的な日本料理を選んで用意した。

揚げ物やバター、チーズなどの使用を避けて考えると、結局は馴染みある味に辿り着く。

それをアランがどう受け取っているかは、彼が好みの言及を避けるので分からなかったが、しかし親子丼を一口食べた彼はレンゲを置いて由香に言った。

「実は固形物が苦手なんだ」

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