孤独なあなたに、夕食を。 〜食べられないCEOの胃袋を掴んだら本気の口説きが始まりました〜

⑤他人の芝生が青過ぎる (※アラン視点)

ホテルの自室に帰った時、扉を開くと空腹を煽る匂いに包まれた。

そもそも、その香りで胸焼けしなかった事からおかしかった。

高級サーロインの脂身や、香ばしいニンニク、濃厚なチーズにトリュフ、そういったものがいつの頃からか香りを嗅ぐだけで吐き気を催すようになっていた。


『うちの子、食が細いのよ。姉さんが羨ましい。リアムはしっかり食べるんでしょう?』


母の口からはいつだって従兄弟のリアムの名が出た。
常に姉を羨ましがって、外で吐き出せない嫉妬をアランはぶつけられてきたのだ。

中でも分かりやすく日常に根差したものが、食事のようだった気がする。

同年のリアムとの発育を比べられては、線が細い、背が伸びない、覇気がないのはサラダばかり食べるから、などと言われ、とにかく母はアランに食べさせようとした。

『体格ぐらいは勝てなきゃね。あの子は友達が多いけど、あなたは違うでしょう?二人は顔が似てるんだから勿体ないわ。身長を追い抜けばきっと注目されるはずよ』

そうして用意される品々。

手作りではないが全て手が込んでいて、残そうとすると母がどこから取り寄せただの、アランの為を想って用意したなどと涙ぐまれ気合で口に詰め込んだ。

おかげで固形物は苦手になった。
匂いを嗅ぐだけで胸焼けし、口に入れると警告しただろと言わんばかりに胃がムカムカする。

密かにトイレで吐き出してやり過ごした日々は、まさに苦行。

この強制的な食事管理は、大学の寮に入るまで続いた。

そして滑稽なのが、食べては吐いての日々を繰り返しても、成長期にはちゃんと背が伸びて、リアムと殆ど変わらなかったことだ。

ただしこの“殆ど”を母は許さない。

『小指の先でも、負けは負けなの。分かる?どうしてリアムみたいに出来ないのかしらね』

いつだってリアム、リアム、リアム。
努力で身長が伸びるなら、その方法を教えて欲しい。


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