孤独なあなたに、夕食を。 〜食べられないCEOの胃袋を掴んだら本気の口説きが始まりました〜

⑥追ってきた元彼

インターン用のビザであるJ-1の申請が無事に通って、晴れてアランの会社に所属することになってから半年。

人間不思議なもので、煌びやかな人達で溢れる会社にも月日を重ねると慣れてくるらしい。

緊張して初めて出社した自分は緊張していたが、インナービューティー部門のメンバーはみんな気さくですぐに打ち解け、今では彼らのキラキラとしたオーラをマイナスイオンのように感じられるようになっている。

「なんだか未だに信じられないわ。あの人、今もまだ本当に毎日食べてるの?」

フロアの一室、上司のサマーが由香のレポートを確認しながら訊ねてきた。

「たまーに渋い顔しますけど、食べてます。時々こんな風に片眉が上がって手が止まるのでドキっとしてたんですけど、それって気に入った時のサインだって最近気づいたんですよ」

わざと大袈裟に顔真似してみせればサマーが青い瞳を細めて笑う。

「すごいじゃない。知らなかったわ。彼って私たちが誘ってもね、だいたい酒だけ飲んで帰っちゃうのよ。ねぇ、イーサン?」

サマーは近くに居たイーサンに話を振った。

インナービューティー部門に所属する社員は古参の人間が多いらしく、中でもサマーやイーサンは創立メンバーとしてアランの事をよく知っているらしい。

時折休憩がてら、イーサンはサマー達を尋ねてやってくるのだ。

「だね。デスクにはいつもコーヒーとスムージーしかないから、ファスティングでもやってるのか?って聞いたことあるよ」

彼らの話によると、この化粧品ハイブランド『ニュー・アロー』は、アラン自らが出資者を募り、メンバーを集めて立ち上げたという。

近々日本の老舗百貨店にもいくつか店舗を展開する予定があり、業績は右肩上がり。

けれどここに至るまでの出資者集めや、ビジネスを軌道に乗せるまでは苦労したらしい。

「アランはあれで実家が資産家なんだ。なのに家出して信託金まで突っぱねてさ、凄いやつだよ。僕は使える金があるなら出資者集めなんてせず、受け取って事業に投資すべきだって説得したけど、聞く耳もたなくて。実は一度大喧嘩したことがある」

いつも穏やかなイーサンの口から大喧嘩と聞いた時は意外で、さらにその実家は名門ギルフォード家だと教えられて、チャリティパーティーの夜にぶつかった男の姿とアランの顔が一致した。

あの夜、二人は既に出会っていたらしい。

「こっちはハラハラしたわよ。でも、ただの金持ちの道楽とか、意地って感じじゃなかったものね。アランは自力で投資家を口説いたし……彼が社食の導入なんて言った時は驚いたけど、これを機会に身体を大事にして欲しいわ」

「そうだったんですね……私も、アランさんには身体を大切にして欲しいです」

あのホテルの夜景は、あえて実家の支援を捨ててアランが自分の力で手に入れたものだと知ったこの日、由香はなんだか無性に寂しい気持ちになった。

< 24 / 35 >

この作品をシェア

pagetop