孤独なあなたに、夕食を。 〜食べられないCEOの胃袋を掴んだら本気の口説きが始まりました〜
一年付き合った彼には渡米を反対され、芋蔓式に人生観の違いが発覚した。
そして人間性への疑問も生まれ、最終的には喧嘩別れしたようなものだった。

由香はまだ二十五歳。
キャリアアップのためニューヨークへ来ていたのに、渡米七ヶ月で状況が一変してしまった。

『絶対後悔するぞ。俺と結婚してりゃ良かったって、絶対後悔するからな』

弱った心には、かつての恋人の声が蘇る。

認めたくない。
今はちょっと、躓いただけ。

元彼の呪いの言葉を振り払うように、由香は社長夫妻に会社を辞職する旨を伝えた。

そしてその日、やさぐれた気持ちで開店直後のバーに入っていった。

元々、料理をする時には酒が必須というくらい酒好きな由香だったが、ニューヨークに来てからは殆ど口にしなかった。

それは、もしも真奈に何かあった時に対応するため自分で決めたことだ。
しかし今はもう制限する理由がない。

カウンターでひとり、エスプレッソマティーニを口にしていると、しばらくして声をかけられた。

「隣、いい?」

視線を上げると、くすんだネイビーブルーのシャツを着た金髪男性の姿。

随分と背が高く、まるでハリウッド映画のスパイものに出てきそうだ。ただし彼の役柄は敵側だが。

そんなことを想像すると同時に、ふと既視感を覚えたものの、しかし直ぐには思い出せない。

オールバックにした長い髪を無造作に結んでいる彼は、まるで絵画から抜け出したかの如く端正な顔立ちをしているのに、荒んだ雰囲気と冷たいグリーンアイが危う気な色香を感じさせる。

一瞬、自分ではない他の誰かに声をかけたのではと後方へ視線をやったが、低い声が再び由香に向かって落ちてくる。

「君だよ。見たところ誰かと待ち合わせでも無さそうだ……酔いたいなら、俺が手伝おうか?」

歪に口角を歪めて不遜な笑みを浮かべる彼は、名前をアラン・ウィルソンと言った。
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