極東4th
 いろいろなモヤモヤを抱えたまま、早紀は登校した。

 自分の父親は、魔族だと言われるし、タミが雇われた医者だし、前回の回復には疑念が残るし。

 モヤモヤしない方が、おかしいだろう。

 しかし。

 休み時間に、それらを吹っ飛ばすような、とんでもない事件が起きた。

 学校の職員が、早紀を呼びに来たのだ。

「は、はい!?」

 ステルスには自覚があったので、呼びかけに慌てて答えて席から立ち上がる。

 呼び出しなんて、生まれて初めてだった。

 何事かと、職員に駆け寄ると。

「ご親戚が、面会にお見えです」

 し・ん・せ・き?

 口をぽかんとして、その言葉を復唱してしまった。

 早紀の親戚といえば、カシュメル系列しか考えられない。

 しかし、わざわざ彼女を呼び出す人など、誰も思いつかなかった。

 思いつくほど知らない、と言った方が正しいか。

 修平さん、かな。

 真理とは遠縁なのだから、修平とも一応そうなるのだろうし。

 早紀は、首を斜めにひねったまま、応接室へと案内された。

 そこには。

 真っ黒い、フードつきのマントに身を包んだ男がいた。

 男、と言っても顔が見えたわけではない。

 ひどく大きくて、がっしりしていたので、女とは思えなかったのだ。

「少し…二人にさせてもらえますか?」

 低く低く、押し殺したような声。

 早紀は、ぽかんと男を見ているしかない。

 ドアが閉ざされ、二人きりになった後。

 マントから腕が出て、節のしっかりした人差し指が一本立った。

 その指が、ゆっくりと男の唇の前に立つ。

 指をそのままに。

 もう片方の手が、少しだけフードをずらした。

 こぼれおちる、赤茶けた髪の一房。

 よく焼けた肌。

「………!!!!」

 早紀は、声にならない絶叫をあげていた。

 誰か、分かったのだ。

 伊瀬。

 街で出会った、海族の男ではないか!
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