極東4th
「魔女を探している…血筋で言えば、カシュメルの…」

 早紀の手に渡される、一枚の写真。

 艶やかで、見ているものの視線を惹きつけてやまない、強い強い瞳。

 長い黒髪は、くるんくるんと好きな方に浮き、跳ね回っている。

 どう見ても魔女。

 タミや零子と反対の、騒々しい方の魔女だ。

「この人を…何故?」

 魔女と、関わりのある人間には見えなかった。

 授業の始まる鐘が鳴る。

「昔…我らの宝が盗まれた。その犯人を…私はずっと探している」

 その鐘の音の中、伊瀬は語り始めた。

 写真の魔女は、一人で海族の中に飛び込み、宝物庫からそれを奪っていったと。

 その方法は、決してスマートではなかった。

 多くの海族に姿をさらしながら、宝を奪い、そして逃げていったというのだ。

 俊敏で、そして『アバキ』と、彼らが名づけた能力を持っていた。

 天族寄りの能力を持つ眷族が、全てそのアバキでしてやられたのだと。

 記憶や知識、秘密──それらを彼女はことごとく、天族寄りから吐き出させたのだ。

 そのおかげで、海族でも一部しか知らない抜け道から、逃げおおせた。

「私は…宝を取り返したい」

 この魔女を、探しす手伝いをしてほしい。

 そう、伊瀬は言うのだ。

 突然そんなことを言われても。

 困ってしまうのが、早紀だ。

 カシュメルの血筋と言われても、早紀はあの屋敷以外のことはまったく知らないのだ。

 それに。

 伊瀬を手伝うということは、海族を手伝うということで。

 そんな事実がバレたら、早紀は身の破滅ではないのか。

 しかし。

 何度も確認するが、相手は海族。

 彼女の中にある、海の力の秘密が分かるかもしれない人でもあった。

 あらがいがたい、誘惑の瞬間。

 ごくり。

 早紀は、生唾を飲み込んでいた。

「私のお父さん…あなたたちの眷属かもしれないんです」

 しらべて、くれますか?

 真理の言葉を──鵜呑みになんて出来なかった。
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