極東4th
 ほけー。

 早紀は、授業中ずっと、力尽きてぼんやりしていた。

 校内での、ありえない来客とその内容で、すっかり疲れてしまったのだ。

 やっと授業が終わって、これで帰れると思っていたら。

 席の前に──零子が来ていた。

 新たな来訪者に、早紀は飛びのきそうになった。

 一体、何の用なのか。

 零子は、じっと目をこらして、彼女の存在を確認しているようだった。

「今日、あなたがとてもよく見える時間帯がありました。だから、確認しにきたのですが…あの時だけだったようです」

 零子の言葉に、ぎくりとした。

 同じようなことが、前にもあった気がするからだ。

 そう。

 街で。

 伊瀬といる時に。

「そ、それって…もしかして…応接室?」

 おそるおそる、聞いてみる。

 今日、伊瀬と会った場所だ。

 あの部屋は、完全にドアは閉ざされていた。

「ええ…私その時、外にいたんです」

 しかし、窓というものがあったのだ。

 応接室は── 一階なのだ。

 だ、大丈夫のはず。

 早紀は、記憶を探った。

 伊瀬はずっと窓に背を向けて、早紀の方を向いていたから、彼が何者かは見られてはいないはずだ。

「随分、親しそうでしたね」

 冷や汗をダラダラかいている早紀は、その言葉に更に追い詰められる。

 駆け寄って手を取ったところは、間違いなく見られたのだろう。

「あ、その、親戚…だから」

 だらだらだらだら。

「そうですか…」

 零子は、早紀のステルスにしか興味がないようで、そのまま背を向けて去っていこうとした。

 ほっとしかけた早紀だったが。

「『あななたちの眷属』…不思議な表現ですね」

 零子の捨てゼリフに、冷水をぶっかけられる思いを味わわされる。

 声ではない。

 きっと、目のいい彼女のことだ──早紀の唇を読んだに違いなかった。
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