極東4th
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 大空蝕が終わって、カシュメルの屋敷に戻る。

 随分長い間、ここを離れていた気がするのは、鎧の中の世界がとても遠かったからだろうか。

 その夜──すでに明け方近く。

 早紀は、自室に帰ろうとしたのだ。

 昨日まで、真理にべったりとつっくき続けていたというのに、彼の気持ちが分かった途端、恥ずかしさがかぁっと押し寄せてきたのである。

 それに。

 自分の中には、もう一人の同居人がいたのだ。

 彼女連れで、真理と同じベッドで眠ることは、とても恥ずかしかった。

『えっ、あんたらの関係ってその程度!?』

 自分の中では、うまくステルスがかけられないのか、貴沙にダダ漏れだったのが、なおのこと彼女をいたたまれなくさせた。

『あたしのことは気にしなくていいわよ、好きにやってるから』

 何をどう好きにやるのか分からないが、彼女は豪胆に言い放つ。

 さすがは、海族の中に泥棒に入っただけのことはある。

 しかし、気にするなというのは難しく、早紀はもごもごと別れのあいさつを真理に切り出そうとしたのだ。

 なのに。

 鎧を解除したての真理は、まだ興奮さめやらぬ状態だった。

 ふぅと、深い呼吸を二度ほど繰り返して、彼は自分を落ち着かせようとしている。

 しかし、その目は。

 その目は、早紀を見ているのだ。

 昨日とは、違う色で。

 動けなくもいたたまれない感覚に、早紀が唇を閉じてしまうと。

 真理は、彼女に手を差し伸べるのだ。

 鎧でもないのに、全身が金属のように硬直してしまった身体を、彼が抱きしめてきた。

「………!」

 あっあっ。

 冷たいんだか、熱いんだか分からない感覚が、早紀の全身を貫く。

 ここは、本当の本物の現実の世界。

 そんな中で、彼女は真理に抱きしめられているのだ。

『いいから目ぇ、つぶんなさい』

 瞼に、自分以外の力を感じて、早紀は眼を閉じさせられる。

 冷たい外側とは、比べられない温度を持った唇に──探られた。


 夢に、鎧の男は現れなかった。
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