極東4th
「トゥーイ卿…その辺にしていただけますか?」

 ひやっ。

 声には、冷気が感じられた。

 反射的に、早紀は自分が叱られている気がして、身を竦める。

 真理の声に対する、条件反射だ。

 ん? 真理?

 しかし、早紀はすぐに感情を驚きに変えた。

 なぜ、ここで真理の声が聞こえるのか。

 はっと視線を投げると、ドアの向こうに彼が立っているではないか。

 あ、あの真理が、ロークラスに!?

 信じられない事態に、早紀の口はあんぐりと開いたまま。

 もはや、淳に捕まれている腕など、どうでもいいほどの衝撃だった。

「おや、カシュメル卿…昨日ぶりだね」

 ぱっと、彼は早紀から手を放す。

 何にも悪いことはしてませんと言うように、その手を軽く上げてみせる。

「さっそく偵察ですか? まあ、3rdのトゥーイ卿としては、気になりますよね?」

 ぴっきぴき。

 早紀の周囲に、氷が張っていく音を感じる。

 それほど、真理の声には冷たさが溢れていた。

 その冷気が、自分に向けられるなら、まつ毛さえ凍りついて目が開かなくなるのではないかと思うほど。

「珍しい能力だと、興味がわくものでね…ご挨拶だよ」

 その冷気を受け流すように、風が巻いた気がした。

 ふわり、と。

 一瞬だけ、左目を覆う髪が浮いたが、その中はよく見えなかった。
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