極東4th
「君の能力は、厄介だな」

 まだ、生徒の帰りきっていない、ざわつく教室。

 そこで、早紀は見知らぬ男と女に、行く手をふさがれていた。

 ど、ど、どうしよう。

 うろたえるしか出来ない。

 何となく、いま、自分がピンチな気がしたのだ。

 早紀は、知らない学校の人間から、声をかけられるような有名人ではない。

 ましてや、相手が自分と同じデコのマークを持っているとなると、いやな予感がプンプンするのだ。

「朝から探索させたが、見つけ出すのに今までかかった」

 男は、左目を紫を帯びた黒髪で遮っている。

 残った右目は、何というか──輝いているように思えた。

 この人。

 この人、この人、この人、まさか。

 勝手に語り始める男を、早紀は警戒しまくった。

 彼女の想像が、間違いでなければ。

 この男は昨夜、あの三人の中の一人として、いたのではないか。

「ああ、名乗ってなかったな…僕は、東夷淳」

 こっちは、零子。

 ガラス玉のような目をした綺麗な子を、軽く顎で指す。

「は…はぁ」

 あの中の一人だというのなら、一体何の用なのだろう。

 無意識に小さくなろうとした早紀は──しかし、次の瞬間びくっとした。

 二の腕を、淳という男につかまれたからだ。

「目の前で挨拶してる相手に、その技は駄目だろう…」

 掴んでれば、消えられないかな。

 淳は、ひとつの目でニッと笑う。

「あっ…あのっ…」

 意味も分からずに、更に腕をとっ掴まれた状態で、早紀は更にしどろもどろになった。

 一体、私に何の御用ですか。

 そう聞いてしまえれば、簡単だったというのに。

 知らない人とのコミュニケーションに慣れていない自分を、ここでさらしてしまうだけだった。

「不思議だね…魔族の力は、魔族には効きが悪いはずなのに」

 ひとつの目が。

 ゆっくりゆっくり──早紀に迫ってきた。
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