ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 しばらくふたりで並んで、それぞれの記録を眺めていた。深夜の静けさというのは不思議なもので、余計なことを考えない言い訳になるはずなのに、かえってするすると思考が内側へ向かっていく。

 数時間前、九条先生が残した言葉が、また頭の中を漂う。

『ここが疼いて仕方がないんだ――』

 ハッとして喉の奥がごくりと音を立て、慌ててほうじ茶の缶を手に取る。

「深結さん、何か悩み事ですか?」

「えっ?」

 ひなちゃんは「あ、違ったらごめんなさい」と笑顔で付け足した。

「なんとなく、そんな気がして」

 鋭いよ、ひなちゃん。

 私がそう見えたとしたら原因は三つ。
 一つは失恋。
 彼女には白石先生と交際に関して話していなかった。彼と付き合い始めたのはひなちゃんが辞めた後だったのもあって言いそびれたままだった。別れた今となっては、このまま話す機会もないだろう。

 もう一つは、九条先生。
 一夜を過ごした件については間違っても言えない。露子にさえ言っていないし、誰にも言わないまま、墓場まで持って行くつもりだ。
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