ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 チンと高い音が響きエレベーターが開き、九条先生は「じゃあ」とにっこり笑って扉の向こうに消えた。

 耳まで赤いだろう、呆然と立ち尽くす私を残して――。


「深結さん? 深結さーん」

 ハッとして振り向くとひなちゃんが私の顔の前で手を翳した。
「考え事ですか? それとも疲れてます?」

 あははと笑ってごまかす。
「ちょっと考え事」

 ひなちゃんと夜勤が重なった。

 今夜の病棟は静かだ。患者はみな安定していて、コールが鳴ることもなく、廊下には時折看護師の靴音が響くだけだ。ナースステーションの明かりだけが煌々と灯り、窓の外は深夜の闇に沈んでいる。

 記録を入力し終えてふうと息をついたとき、隣の端末からひなちゃんがこちらを振り向いた。

「深結さん、お茶飲みませんか。差し入れもらったんです」

 そう言って彼女がデスクの引き出しから取り出したのは、小さな缶入りのほうじ茶だった。

「ありがとう。いただく」

 受け取って一口飲むと、ほんのり甘い香ばしさが喉に広がった。
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