ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 彼は誰にでも優しく微笑みかける人になった。

 かつて、私はそうなるであるように注意したわけで、ここは喜んで〝九条先生素晴らしい!〟と賞賛するところなんだろう。

 でも、なにかが魚の小骨のようにひっかかる。

 電子カルテをチェックしながら、なんだかなーと、ため息が漏れた。

「雪村さん、ちょっといいですか」

 午後、カンファレンスルームの片付けを一人でしていたとき、不意に後ろから声をかけられた。

 振り返ると、白衣をスマートに着こなした九条先生が、手元にいくつかの書類を持って立っている。

「あ、九条先生。お疲れ様です。……何か、確認の書類ですか?」

 私は看護師の顔を作り一歩下がって応じる。
 適切な距離を保つのを忘れずに。

「ええ。明日のカンファレンスの資料なんですけど、病棟のベッドコントロールについて、少し雪村さんの意見を聞きたくて」

「私の、意見、ですか?」

「ええ、雪村さんの」

 私の戸惑いに気づいていないのか、無視しているのか彼は私に書類を差し出してきた。
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