ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 ひなちゃんから聞いていた話だ。

 でも、大学病院って、まさかね。
 脳裏をよぎったのは、白石先生……。

 桜風病院はいくつかの大学病院と提携している。その中には、私の前職場の大学病院の名前もあるけれど、心臓外科医は何十人もいるのだ。いくらなんでも、そんな最悪な偶然があるはずがない。

 大丈夫よ。運命の女神だってそこまで意地悪じゃないわ――そう自分に言い聞かせ、胸の奥に湧き上がった不穏なざわつきを無理やり押し込める。

 気を取り直してカルテに目を落とした時だった。
 カウンター越しにちらりと白衣の気配がした。

「雪村さん、この検査オーダー、内容の確認をお願いできますか」

 顔を上げると、九条先生がにっこりと笑みを浮かべて、書類をカウンターに置く。

「はい、お待ちください」

 画面を操作して内容を確認し、書類を返すと、それと入れ替わりに小さく折り畳まれた紙をカウンターに滑らせた。

「これ、よろしく」

 それだけ言って踵を返す。

 よろしく、って何が――。

 周囲を気にしながらそっと広げると、伸びやかな字でこう書いてあった。
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