ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
結局、寝不足の頭のまま迎えた朝。
ベッドの上にクローゼットから引っ張り出した服が何着も広がっている現状に、自己嫌悪が募る。
カジュアルすぎるのも変だし、かといってよそいきすぎるのも違う気がするし、どうしていいのかわからない。
「ただの、職場の上司からの呼び出しなんだから。なにを着ていったって同じよね……」
自分にそう言い聞かせるのに、考えがまとまらないのだった。
引っ張り出しては戻し、また引っ張り出す。そんなことを一時間近くも繰り返して、部屋の時計が十時を回った頃。結局、一番自分らしくいシンプルなベージュの薄いニットと細めのパンツに落ち着いた。
鏡の前に立ち、髪を少しだけ整えてみる。
派手すぎず、地味すぎず。どこに出しても失礼のない、無難なコーディネート。
「ただの、お仕事の延長。……そう、これは大人の用事」
おまじないのように呟いて、ポケットの中のスマートフォンをぎゅっと握りめ、部屋を出た。
このマンションには車を回せるようなスペースはない。少し早めにエントランスの外へ出て、通りを眺めながら待つことにした。
まだ朝の爽やかさを残す秋の空気が、火照った肌に心地よく、高鳴る鼓動をなだめてくれる気がしたけれど、それも長くは続かなかった。
まるで計ったように十一時ちょうど、見覚えのある黒のSUVが、滑らかな動きで私の目の前に滑り込んできた。