ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 見上げれば、澄んだ秋空に向かって白い噴煙があちこちから勢いよく立ち上り、荒涼とした地肌が広がっている。大涌谷だ。遠くの山肌を揺らすススキの穂が、西日にきらきらと輝いていた。

「おー、すごい迫力!」

「さあ、ちょっと散策しましょう」

 それから普通の観光客のように黒たまごを食べたりして満喫し、気づけば大涌谷を包む空が、深い茜色に染まりはじめていた。

「明日、予定はありますか?」

 帰り道の車の中で、九条先生が不意にそう聞いてきた。

「特には……ないですけど」

 先生は「そうですか」と短く答えた。

 正直言うと、まだこのまま帰りたくはなかった。
 ふざけあって久しぶりに心から笑えたし、なにもかも忘れて楽しめた。心も体もすっかり軽くなっている。

 せめてものお礼に夕食くらいご馳走したいと思うが、どう切り出したらいいのか悩む。

 しばらく走ってから、ふと気づいた。

 あれ――大事な話、まだ聞いていない。

「九条先生、大事な用って」

「ああ」

 先生はちらりとこちらを見て、口の端を上げた。

「別荘に着いてから話します」

「え? 別荘?」

「ええ。今夜はそちらに泊まってもらうので」

「ちょっと待ってください、泊まりとは聞いてないんですが」
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