ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 ギョッとして身を乗り出そうとしてシートベルトに阻まれる。ちょっと、もうとジタバタしていると。

「あれ? 言いませんでしたっけ」
 涼しい顔でそう言いながら、車はすでに山道を登りはじめていた。

「そう警戒しないで大丈夫ですって」

 笑う彼を頬を膨らませて睨みつけてみたものの、実はちょっと喜んでいる自分もいて、それがまた腹立たしかった。なんにせよ主導権は車を運転する彼にある。仕方ないわと、あきらめた。

 なんだかんだ云っても彼だって常識のある人だ。はっきりと拒絶すれば強引なことはしないはず。

 気を取り直して前を向くと、フロントガラスの向こうでは、燃えるような夕日が山端に沈みかけている。

 空は鮮やかな茜色から、夜の帳が降りる手前の深い紫へとグラデーションを描いていた。うっそうと茂る木々の隙間から差し込む西日が一瞬、車内を真っ赤に染め上げ、先生の横顔に長い影を落とす。

 山道を登りきったところに、その建物はあった。
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