ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 振り返った彼の手元を見て、私は思わず笑ってしまった。

 脳神経外科医なだけあって手先は器用なはずなのに、包丁の持ち方はどこか危なっかしい。

「貸してください。続きは私がやりますから、先生はどうぞ温泉に入ってきてください」

 ここまで連れてきてくれたお礼にと、強引に引き受ける。

「じゃ、お願いします。冷蔵庫に管理人が箱根名物の湧水豆腐や秋のキノコをひと通り用意しておいてくれましたから」

 にっこりと笑った先生は右手を優雅に流し、芝居がかったようにキッチンを私に明け渡した。

 さっそくバトンタッチして冷蔵庫を開けてみると、そこには丁寧に下処理されたキノコや、あとは切るだけの状態になった野菜、きれいに並んだお肉のパックが収まっていた。

 もう完全に鍋の準備、整ってるじゃないですか。

 なんだかんだと、先生の手回しの良さに私は思わずクスッと笑ってしまった。
 管理人さんに料理の準備まで頼んであっただなんて。もし私がどうしても今日は帰るなんて言っていたらどうするつもりだったんだろう。
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