ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 エプロンをつけて残りの野菜の続きを刻み、土鍋から立ち上る温かい湯気に包まれていると、心までほんわかと温かくなる。

 しばらくして、さっぱりした顔の九条先生が戻ってきた。紺の浴衣姿で、濡れた髪がわずかに額にかかっている。普段の白衣とも私服とも違うリラックスした姿にどぎまぎする。

「おおー、美味しそうだ」

 土鍋から立ち上る湯気をのぞき込んで、先生は子どものように顔を輝かせると、日本酒と杯をふたつ持って戻ってくる。

「雪村さんの再出発に、乾杯」

 差し出された杯を受け取って、思わず笑い返した。
「乾杯」

 暖炉の前のローテーブルに向かい合って座り、鍋をつつきながら話した。病院の話、箱根の話、他愛のない話。日本酒は思ったより口当たりが良くて、気づけば何度も杯を重ねてしまっていた。

 ほんのり頬が熱い。失恋の夜、お酒のせいで彼にすべてをさらけ出してしまったというのに、私はまた同じ過ちを繰り返そうとしているのだろうか。

「雪村さん、やっぱり顔が赤い」
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