ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 九条先生は、手元の杯を置くと、意味深に目を細めて私を覗き込んできた。

「だ、大丈夫ですよ? ちゃんと自分の限界を分かって飲んでいますから」

 年上の先輩としての自負を込めて、私はあえて少しツンとした声で言い返す。あの夜は泥酔してパニックのまま流されてしまったけれど、今日はもう騙されない、と言い聞かせるように。

 けれど、彼はくすりと声を立てて笑った。

「そうですか。それなら安心だ。――実はね」
 ふと、彼の声のトーンが低く変わった。

「雪村さんとこうして、誰の目も気にせずに鍋を囲みたくて、今日ここへ連れてきたんです」

「え……」

「大事な用って、そのこと」

 箱根の夜は都内よりもずっと寒い。
 暖炉の炎が揺れていて、彼の端正な顔に深い光と影を作る。病院で見るような人懐っこい笑顔はすっかり消えていて、射抜くような真剣な目がまっすぐ私を見ていた。

「……わざわざ箱根まで、私を連れ出すのが、先生の大事な用事?」
 先生はにっこりとほほえんで頷く。

「まあ、それだけじゃないですけど」
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