ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 私は彼に知ってほしくて家族の話をしたけれど、彼の反応は薄かった。一度も会いたいとは言われていないし、私は彼に会ってほしかったのに、どうしても言い出せないままだった――。

 急に胸が苦しくなってカクテルを口に含んだ。舌に残るオリーブの塩気と喉を落ちていくアルコールの鋭い辛みが、心の傷を浮き彫りにするようにヒリヒリと沁みていく。ふと、口から漏れるように「ねえ露子」と呟いた。

「私ね、いつの間にか、自分で目隠ししていたみたい」

「ん? 自分で自分の目を?」

 怪訝そうな露子に、薄く微笑んでこくりと頷く。

「考えてみれば、彼はちゃんと信号を出していたの」

 君とは結婚しないよ、ってね。

「それなのに私は、見えないふりをした。気づかないふりをしていたのよ」

 三年前に彼が言った、たった五文字を後生大事に抱え込んで。

〝結婚しよう〟

 その言葉がどれほど儚くて脆いものだとも知らずに。
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