ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 重篤な病気が発覚した患者が、体が出す信号に気づかないふりをしたように、私もまた向き合う勇気も努力も足りなかったのだ。

「深結、深結は悪くないよ? あなたはなーんにも悪くない」

 振り向くと露子が怖いくらいに真剣な顔で私を見ていた。それがなんだかおかしくて、クスッと笑う。

「ありがと」

 グラスが空になるたびに露子が次を頼んで、私もそれに倣う。案外私もお酒に強いようだ。それを繰り返すうちにあきらめのようなものができてきた。

「私、ちゃんと乗り越えるよ」

「そうそうその調子、あんな男さっさと忘れてしまえ」
「うん。忘れる! さっさと忘れてやる」

「そうだ、そうだ」

 行き場のない怒りも悔しさも、すべてがアルコールの中に溶けてぼんやりと霞んできた頃。

「ジントニックを」

 ふいに左隣から響いた低い声に、なんとなく聞き覚えがあるような気がして視線を向けた。いつの間にか客が入れ替わっていたらしい。
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