ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 彼の表情が、パッと花が咲いたように明るくなる。

「覚えていてくれたんですね。うれしいなー」

 目を細めた人懐っこい笑みにひるむ。かつてのあの不遜で横柄な態度や表情は、どこにも見当たらない。

 トイレから戻ってきた露子も、彼を見て「え、九条先生じゃないですか」と声を上げた。露子は私と違って彼をしっかりと覚えていたようだ。

「ああ、同じ病棟にいましたよね。お久しぶりです」

 彼が人懐っこく笑い返すと、露子もすぐに打ち解けて、三人でひとしきり話が弾んだ。

「九条先生が他の病院に移られてから、うちの病院、地下の売店がリニューアルしてすごく綺麗になったんですよ」

 そう露子が言えば、彼は目を輝かせる。

「え、そうなんですか? 俺がいた頃はちょっと薄暗くて、弁当の種類も少なかったのに」

 話をしているうちに少しずつ思い出した。

「そういえば九条先生、売店のお弁当、よく不味いって文句言ってましよね」
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