ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 その背中を見送って、そっと息を吐く。彼女には部屋で待っている恋人がいる。本当は泊まりに行くか泊ってもらうかしてほしいけれど、そこまでは甘えられない。

 露子の背中が遠くなると一人取り残されたような気分になって、胸の奥から失恋の悲しさが戻ってくる。まだ夏なのに北風が吹いているみたいにブルッと寒気がして腕に手を回してさする。

 さあ、私も帰ろう。

 振り返って九条先生にぺこりと頭を下げた。

「先生。今日はありがとうございました。そして、ごちそうさまでした」

 踵を返しかけたところで、九条先生に「あ、雪村さん」と、呼び止められた。

「はい?」
「もう一軒どうですか。実は俺、ちょっと悩みがあって。聞いてもらえませんか?」

 彼は眉尻を下げて、途方に暮れたような瞳で私を見つめ、首を傾げる。まるで、体の大きな子犬みたいに。
 なんだか、かわいくてクスッと笑ってしまう。

「いいですよ。私ももうちょっと飲みたい気分なので」
「やったー」

 弾けるような笑顔で喜ぶ彼につられて私も笑った。
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