ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 先ほどの薄暗くモダンな空間とは対照的に、歴史を物語る飴色の木製カウンターが横に長く伸びて安らげる佇まいをしていた。そのカウンターの奥の席に、二人並んで腰を下ろす。

 流れているのはジャズだけれど、先ほどの店とは違って女性歌手がハスキーで、それでいて艶のある声でスローバラードを歌い上げている。

 壁一面に並ぶボトルが間接照明を受けてそれぞれに色を灯し、店内をやわらかく染めていた。数人の客はいたが、女性バーテンダーがグラスを磨く音が聞こえるくらい静かで、隣に座る九条先生の体温がほんのりと感じられた。

「ひとまずクールダウンをしましょう」

「はい。そうですね」

 さすがにちょっと飲み過ぎた。

 選んだのは九条先生が勧めてくれたバージン・ブリーズというノンアルコールの赤いカクテルだった。クランベリーとグレープフルーツのジュースがグラデーションに混ざり合い、シュワシュワと炭酸の泡が弾けている。見た目にも美しく、火照った体を冷やすように喉ごしがさっぱりとして、とても美味しい。
< 23 / 77 >

この作品をシェア

pagetop