ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 私と誠一郎さんもあまり会えなかった。彼も忙しかったから。

 それでも最初の頃は、たとえ三十分でも私のために時間を割いてくれた。それがいつからだろう。週に一度が、月に数えるほどになり、最近は月に一度くらいしか会えなかった。それだけ熱が冷めていたといういことだったのかもしれない。

 口にしたオランジェットの苦味が、口の中から胸へと広がっていく。

「彼女、今日婚約したそうです」

「先週振られたばっかりなのに?」

 驚きのあまりグラスを持つ手が止まり、氷がカランと音を立てる。

「そう。切り替え早すぎでしょ」

 それはさぞかしショックだったに違いない。

 私だって、もし誠一郎さんが婚約したと聞いたら……。

 ありえない話ではない。噂で聞いたお見合いが事実で、縁談がまとまったなら着々と話は進むはず。婚約は来週ではないにしてもそう遠くない未来だ。

 そのとき私は耐えられるだろうか。皆のように、おめでとうございますと言えるのだろうか。想像しただけで胸が苦しくなり、そっと息を吐いた。
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