ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 九条先生だって御曹司だ。自分の結婚となると様々な絶対的条件があるに違いない。

「友だちの話なんですが」と私は話を切り出した。

 わが身に降りかかったこの状況を彼はどう言うだろう。それが知りたくて私は、誠一郎さんとの四年間、そして今日ホテルのラウンジで告げられた言葉のことをかいつまんで話した。彼のように、私の友人の話として。

「彼らの場合は、男性のほうが現実的だったようです。結婚するには、相手の家柄とか条件があるらしく」

 九条先生は私を見つめたまま、眉をひそめた。「クズだな」と聞こえた気がして聞き返した。

「えっ?」
「いえ……、そうでしたか」

 彼は静かな微笑みを浮かべて、私のグラスにそっと自分のグラスをあてた。
 チンと高い音が響く。

「お互い、踏んだり蹴ったりでしたね――友だちが」
「はい。酷い目に遭いましたね――友だちが」

 言ってるそばからおかしくて、思わずあははと声を上げて笑った。笑いすぎて涙がこぼれ、おしぼりを取ろうとして手元が狂い――。

「あっ!」
 グラスを倒してしまった。
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