ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
「彼はなんて言って別れを切り出したんですか?」

 受け取ったグラスを揺らし、芳醇な葡萄の香りを感じながら、束の間迷う。言いづらいしあまり言いたくもないが、客観的に見れば友人の話なのに戸惑うのは変だろう。

「ご両親が反対だと……立場の違いを理由に結婚はできないと言われちゃったそうです」

「立場の違い?」

 こくりと頷いた。

「その彼は、医者なんですが、どうやら資産家の令嬢で医者でもある人と縁談があるとかで……。彼の実家も開業医だから、お医者様の奥様がよかったんだろうって」

 それ自体はよくある話だ。結婚してクリニックを大きくしていくとか、同じ立場でわかり合えるとか。理由は様々だが、医者同士がお見合いをして結婚する話はときどき耳にする。

 だから大丈夫。この程度のありふれた話だけで、その彼が誠一郎さんに結びつくことはない。予防線を十分に張れていると満足し、以上終了と心の中で呟く。

 口にしてみて、随分あっけない関係だとあらためて気づかされる。
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