ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 連絡先も、彼が今どの病院にいるかも聞いていない。二年ほど前に先生が大学病院を去ってから一度も会っていないし、これからだって顔を合わせる機会はないはずだ。

 お互いに大人なのだから、たった一夜だけの過ちと割り切ればいい。それに、これで誠一郎さんを完成に想い出にできると思えば、かえってよかったのかもしれない。

 酔っていたからとはいえ、恋人でもない人と体を重ねて、しかも一時とはいえ、我を忘れるほど夢中になれたのだ。

 もしかしたら、私は案外自分で思っている以上にしたたかで強いのかもしれない。
 そう思うと少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

 そうよ。大丈夫。

 顔を上げ、あらためて見上げた空は雲一つない青空で、眩しさに目を細めた。

 切り取ったような空がいくらか高く感じる。
 夏ももうすぐ終わりだ。冷夏という予想のわりには暑い夏だったけれど、熱気もこの胸に疼く痛みも、秋風とともに少しずつ薄れていくだろう。
 今日はゆっくり休もうと思った。シャワーを浴びてコーヒーを飲み、すっきりしたところで部屋から誠一郎さんの想い出を消し去って、新たな気持ちで月曜を迎えよう。
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