ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 昨日は彼が、同じ科の医師から『婚約おめでとう』と言われているところを通りかかってしまった。

 すれ違い様に聞こえた彼の『ありがとう』と応える声が、私の心臓をえぐるように刺さり、うれしそうな明るい声に吐き気がこみ上げた。

 理由も話したし、ちゃんと別れたのだかがら別にいいよね、とでも言われているようで胸が苦しい。

『とんでもないクズですね、その男』

 そう九条先生が言った通りなんだろう。

 結婚に条件があるならば交際同時からわかっていたはず。私は彼に、両親はごく普通の会社員だと伝えてあったから。

 今思えば『君のご実家は医療関係なの?』と聞いてきた時に、彼は結婚という将来について見極めようとしたのだ。そしてごく普通と聞き見切りをつけた。
 だからこそ、一度も親に会ってほしいという話にならなかったし、彼は私の両親に会いたいとは言わなかった。
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